ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
アンテヴェルディ家を立て直す為の話し合いが済んだ後は、ラズラリーがにこにことお茶の場を設けた。ティールームに場所を移し、リリーシュの大好きな紅茶がラズラリーの手によってティーカップに注がれていった。
先程は第三王子であるルシフォールがなんと空気の様な扱いをされていたが、ここではラズラリーがきらきらと少女の様な瞳で彼を見つめていた。
ゴシップや流行りの恋愛小説が大好きなラズラリーは、自身の娘と国の第三王子が周囲の逆境に負けず愛を貫こうとしている、という構図にこれでもかと胸を躍らせていた。
エリオットの事は、彼女も申し訳なく思っている。しかし、自身の所為で幸せとは真逆の人生を歩まなければならないと思っていたリリーシュが、頬を染めながらルシフォールの話をする様子を見て、ラズラリーは本当に嬉しかったのだ。
彼女は彼女なりに、家や娘に迷惑を掛けてしまった事を反省している。
「ルシフォール殿下は、お噂以上の方ですわ。こんなに美しい男性を見た事がありません。青い瞳に輝く金色の髪、これぞ正に完璧な王子!」
「ど、どうも」
「殿下が私の可愛いリリーシュの将来の旦那様になるなんて、なんて素晴らしいのでしょう」
まるで芝居でもしているかの様に大仰な仕草をしてみせるラズラリーに、ルシフォールは対応に困っていた。ワトソンの様にユリシスとばかり楽しげに話されるのも嫌だが、正直に言うと彼女の様な女性は苦手だったのだ。
というよりルシフォールは、未だにリリーシュ以外の女性の前ではつい顔が強張ってしまっている。彼女の為にも、出来るだけの交流はするようになったつもりではあるが。
「こんな場所までお忍びで会いに来てくださるなんて、リリーシュは幸せ者ね」
「…はい、お母様」
素直に頷いたリリーシュを見て、ルシフォールは顔を赤らめる。そんな彼の噂とは全く違う様子を見て、ラズラリーは益々瞳を煌めかせたのだった。
ラズラリーの質問責めからやんわりと逃してくれたのは、やはりユリシスだった。彼は手慣れたもので、その柔らかな笑みと巧みな話術でラズラリーはすっかりユリシスをまるで女友達の様に認識してしまった様子だった。
リリーシュとルシフォールは、庭園にあるガゼボへとやって来た。寒さは幾らか和らいだが、それでもまだまだ頬を撫でる風は冷たい。
「ルシフォール様、寒くはありませんか?」
「俺は平気だ。お前は?」
「私も平気です。ルシフォール様にぜひウチの庭園を見て頂きたくて」
「なるほど。そういえばお前は宮殿の庭園も気に入っていたな」
「あちらに比べれば随分と小さなものですが、花の配置や噴水の造形などに拘っているのです」
「そうか。俺はこういうものの良し悪しについては、正直良く分からない。しかし、この庭は雰囲気がリリーシュに似ている」
「まぁ。そんな事は初めて言われました!」
「何かおかしかったか?」
「いいえ。とても嬉しいです」
本当に嬉しそうなリリーシュの笑顔に、ルシフォールの胸は苦しい程にどきどきと高鳴っていた。
先程は第三王子であるルシフォールがなんと空気の様な扱いをされていたが、ここではラズラリーがきらきらと少女の様な瞳で彼を見つめていた。
ゴシップや流行りの恋愛小説が大好きなラズラリーは、自身の娘と国の第三王子が周囲の逆境に負けず愛を貫こうとしている、という構図にこれでもかと胸を躍らせていた。
エリオットの事は、彼女も申し訳なく思っている。しかし、自身の所為で幸せとは真逆の人生を歩まなければならないと思っていたリリーシュが、頬を染めながらルシフォールの話をする様子を見て、ラズラリーは本当に嬉しかったのだ。
彼女は彼女なりに、家や娘に迷惑を掛けてしまった事を反省している。
「ルシフォール殿下は、お噂以上の方ですわ。こんなに美しい男性を見た事がありません。青い瞳に輝く金色の髪、これぞ正に完璧な王子!」
「ど、どうも」
「殿下が私の可愛いリリーシュの将来の旦那様になるなんて、なんて素晴らしいのでしょう」
まるで芝居でもしているかの様に大仰な仕草をしてみせるラズラリーに、ルシフォールは対応に困っていた。ワトソンの様にユリシスとばかり楽しげに話されるのも嫌だが、正直に言うと彼女の様な女性は苦手だったのだ。
というよりルシフォールは、未だにリリーシュ以外の女性の前ではつい顔が強張ってしまっている。彼女の為にも、出来るだけの交流はするようになったつもりではあるが。
「こんな場所までお忍びで会いに来てくださるなんて、リリーシュは幸せ者ね」
「…はい、お母様」
素直に頷いたリリーシュを見て、ルシフォールは顔を赤らめる。そんな彼の噂とは全く違う様子を見て、ラズラリーは益々瞳を煌めかせたのだった。
ラズラリーの質問責めからやんわりと逃してくれたのは、やはりユリシスだった。彼は手慣れたもので、その柔らかな笑みと巧みな話術でラズラリーはすっかりユリシスをまるで女友達の様に認識してしまった様子だった。
リリーシュとルシフォールは、庭園にあるガゼボへとやって来た。寒さは幾らか和らいだが、それでもまだまだ頬を撫でる風は冷たい。
「ルシフォール様、寒くはありませんか?」
「俺は平気だ。お前は?」
「私も平気です。ルシフォール様にぜひウチの庭園を見て頂きたくて」
「なるほど。そういえばお前は宮殿の庭園も気に入っていたな」
「あちらに比べれば随分と小さなものですが、花の配置や噴水の造形などに拘っているのです」
「そうか。俺はこういうものの良し悪しについては、正直良く分からない。しかし、この庭は雰囲気がリリーシュに似ている」
「まぁ。そんな事は初めて言われました!」
「何かおかしかったか?」
「いいえ。とても嬉しいです」
本当に嬉しそうなリリーシュの笑顔に、ルシフォールの胸は苦しい程にどきどきと高鳴っていた。