ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
翌日、リリーシュは輝く空の様なアイスブルーのドレスに身を包み、両親や兄と別れを惜しんだ。しかし二年前のあの日とは全く違い、皆一様に幸せそうな笑みを浮かべている。

「リリーシュ。お前は本当に私の自慢の娘だよ」

「お父様。今まで本当にありがとう」

「愛しているわリリーシュ。貴女が何処にいても、いつも想っているから」

「私も、お母様の幸せを願っているわ」

「この家の事は俺に任せて、お前はしっかりとルシフォール殿下をお支えするんだぞ」

「お兄様もどうか、お義姉様とお幸せに」

リリーシュは一人ひとりと親愛のハグを交わし、使用人達にも優しい笑みを向けた。

「うぅ…お嬢様、本当に良かったです……っ」

侍女のルルエがしきりに鼻を鳴らし、大粒の涙をポロポロと流している。

「まぁ、ルルエったら。貴女はリリーシュと一緒に行くのだから、そんなに泣く事ないじゃない」

ラズラリーがルルエに向かってそう言うが、彼女はぶんぶんと首を横に振った。

「あの頃のお嬢様の心情を思うと私、泣かずには要られませんっ」

「ありがとうルルエ。これからもよろしくね?」

「もちろんでございます、お嬢様…いえ奥様!」

「ふふっ。もう、気が早いんだから」

リリーシュはルルエの手を取り、ふんわりと微笑んだ。

「宮殿より迎えの馬車が到着致しました」

使用人のその声を聞き、一行は門へと向かう。これに乗れば遂にルシフォールに逢えるのだと思うと、リリーシュの胸は震えた。

「あの、リリーシュ様」

馬車の横に立っていた従者が、何やら落ち着かない様子で視線を彷徨わせている。

「どうかされたのですか?」

リリーシュが首を傾げたと同時に、カチャリと馬車の扉が開く。そこから降りてきた人物を見て、リリーシュの瞳にはみるみるうちに涙が溜まっていった。

「随分と待たせたな、リリーシュ」

「ルシフォール様、何故こちらに」

「我慢出来なかった」

照れた様にはにかむルシフォールに、リリーシュは堪らず駆け寄り抱き着いた。ルシフォールは驚きながらも、しっかりとその腕で抱き締める。

「ずっとお会いしたかった…っ」

「俺もだ。お前の事を考えない日は、一日もなかった」

「ルシフォール様…」

「夢ではない、本物のリリーシュだ!」

ルシフォールはとびきりの笑みを浮かべると、ふわりと彼女を抱き上げた。その場に居た誰もが驚き、そして幸せそうな笑みで二人を見つめていた。
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