ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
王妃であるオフィーリアは玉座に座り、ゆったりと肘掛けに腕を乗せている。特段厳しい表情を浮かべている訳でもないのに、威圧感たっぷりの雰囲気に周囲の空気はぴりりと引き締まっていた。
「それで?言い訳はそれだけなのかしら」
濡羽色のドレスに身を包んだオフィーリアは、視界の下に居る者達に視線を向ける。自然と見下ろす形になり、それがまた一層恐怖を駆り立てた。
「おっ、お許しください王妃陛下!私は決して、そんなつもりはなかったのです」
「いいえ、許しません。どんな言葉を並べ立てた所で貴方達の罪が軽くなる事はないの。私が言える事は一つ。貴族としての誇りがその澱みきった心の中に少しでも残っているのなら、潔く罪を認めなさい」
きぱりとそう言いきるオフィーリアの前でガタガタと膝を震わせているのは、伯爵家であるモンテベルダ卿にグロスター卿。結託しアンテヴェルディ公爵家を騙した張本人達である。
オフィーリアは最初のうちは手を出さず、全てリリーシュとそれに協力していたルシフォールに好きな様にやらせた。二人が周囲の力を借りつつ殆ど決定的と言っていい証拠を集め終えた時点で、彼女はユリシスを使いそれを回収させたのだ。
リリーシュが強くなったと言っても、本質は変わらない。ルシフォールにとって不名誉な汚名が解消されれば、彼女はそれ以上追求しないだろうとオフィーリアは確信していた。
ーー第三王子の妃となる女にしては、何とも甘い
そう思う気持ちと、そのまま変わらずにいて欲しい気持ち。それがせめぎ合った結果、オフィーリアは自分の手で金汚い貴族達に鉄槌を下す事にしたのだ。
内心では、とてもつまらないと彼女は思っていた。モンテベルダもグロスターもただガタガタと震え言い訳を並べるだけで、全く歯応えがなかったからだ。
お人好しワトソンを騙す事と、王家が後ろについている家を騙す事は違う。まさかリリーシュにルシフォールとの婚約話が持ち上がるなどとはこれっぽっちも思っていなかった両家は、いつ自分達の悪行がバレてしまうのかと気が気ではなかった。
そして遂にその時がやって来て、今は後悔の念でいっぱいだった。
調子に乗って公爵家に手を出すのではなかった、と。
「今まで結託し散々甘い汁を啜ってきたのだから、報いを受けるのは当然。そうよね?」
「…うぅ……っ」
バサリと扇子をはためかせ、オフィーリアは実に妖艶に笑った。
彼女は決して悪人ではないが、かといって善人でもない。決して良い母親とも言い難い奔放な女性だ。
わざとルシフォールの執務を増やしたり、リリーシュを招待したあの茶会で貴婦人達にひと芝居打たせたりもした。
「…ふふっ」
しかしそれでも、どうしようもない息子が幸せそうに笑っている姿を思い出し、彼女の心は充足感に包まれていたのだった。
「それで?言い訳はそれだけなのかしら」
濡羽色のドレスに身を包んだオフィーリアは、視界の下に居る者達に視線を向ける。自然と見下ろす形になり、それがまた一層恐怖を駆り立てた。
「おっ、お許しください王妃陛下!私は決して、そんなつもりはなかったのです」
「いいえ、許しません。どんな言葉を並べ立てた所で貴方達の罪が軽くなる事はないの。私が言える事は一つ。貴族としての誇りがその澱みきった心の中に少しでも残っているのなら、潔く罪を認めなさい」
きぱりとそう言いきるオフィーリアの前でガタガタと膝を震わせているのは、伯爵家であるモンテベルダ卿にグロスター卿。結託しアンテヴェルディ公爵家を騙した張本人達である。
オフィーリアは最初のうちは手を出さず、全てリリーシュとそれに協力していたルシフォールに好きな様にやらせた。二人が周囲の力を借りつつ殆ど決定的と言っていい証拠を集め終えた時点で、彼女はユリシスを使いそれを回収させたのだ。
リリーシュが強くなったと言っても、本質は変わらない。ルシフォールにとって不名誉な汚名が解消されれば、彼女はそれ以上追求しないだろうとオフィーリアは確信していた。
ーー第三王子の妃となる女にしては、何とも甘い
そう思う気持ちと、そのまま変わらずにいて欲しい気持ち。それがせめぎ合った結果、オフィーリアは自分の手で金汚い貴族達に鉄槌を下す事にしたのだ。
内心では、とてもつまらないと彼女は思っていた。モンテベルダもグロスターもただガタガタと震え言い訳を並べるだけで、全く歯応えがなかったからだ。
お人好しワトソンを騙す事と、王家が後ろについている家を騙す事は違う。まさかリリーシュにルシフォールとの婚約話が持ち上がるなどとはこれっぽっちも思っていなかった両家は、いつ自分達の悪行がバレてしまうのかと気が気ではなかった。
そして遂にその時がやって来て、今は後悔の念でいっぱいだった。
調子に乗って公爵家に手を出すのではなかった、と。
「今まで結託し散々甘い汁を啜ってきたのだから、報いを受けるのは当然。そうよね?」
「…うぅ……っ」
バサリと扇子をはためかせ、オフィーリアは実に妖艶に笑った。
彼女は決して悪人ではないが、かといって善人でもない。決して良い母親とも言い難い奔放な女性だ。
わざとルシフォールの執務を増やしたり、リリーシュを招待したあの茶会で貴婦人達にひと芝居打たせたりもした。
「…ふふっ」
しかしそれでも、どうしようもない息子が幸せそうに笑っている姿を思い出し、彼女の心は充足感に包まれていたのだった。