ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
第五章「リリーシュは、いろんなことに興味津々」
ーー

「ねぇ、ルルエ。私って、少し変わっているのかしら」

リリーシュは鏡を見つめながら自分の頬に触れる。そんな彼女に、ルルエは大きな瞳をパチクリと瞬かせた。

「どうしたのですか、お嬢様。突然そんな事を言い出すなんて」

「ここに来てから、何度かそんな風に言われてしまったから」

「誰ですか、レディにそんな失礼な事を言う人は」

「ルシフォール殿下よ」

「…ああ」

ルルエは額に手を当てて盛大な溜息を吐く。そういえば、先日ユリシス様に誘われたお茶の席でお嬢様はそう言われていたと、思い出してしまった。

只の侍女である自分が、国の第三王子に何かを物申せる筈もない。しかし、あの失礼な男の事がルルエは大嫌いだった。

アンテヴェルディ家の内情を知っているから、結婚話がなくなってしまうのは非常に良くない事だと、彼女も分かっている。それを分かってはいても、リリーシュの幸せを願うルルエは本心ではこの結婚に賛成したくなかったのだ。

「あのお方の仰ることは、お気になさらない方が良いですよ」

「いいえ、別に気にしている訳ではないのよ。だけどあんな風に何度も変わり者だと言われるのだから、私にも原因があるのではないかと思ってしまって」

「殿下のお心は、私には分かりかねます。ですがただ一つ胸を張って言えることは、リリーシュお嬢様は素晴らしい方だという事です」

「まぁ、ルルエ。そんな風に私を褒めてくれるなんて」

「お嬢様は、変わり者などではありません」

「ふふっ、ありがとう」

リリーシュ自身は特に深い意味で聞いた訳ではなかったのだが、ルルエが予想以上に真剣な表情で答えてくれたので、鏡越しに彼女の瞳を見つめながら微笑んだ。

決して居心地の良くないこの場所で、それでも誠心誠意私の側で仕えてくれるルルエに、リリーシュは改めて感謝の念を抱いた。

「それでお嬢様。本日の予定は、どうされますか?庭園を散策なされるならばすぐに用意をして…」

「今日は違う事をしてみようと思うの。許してもらえるのなら、だけれどね」

リリーシュはルルエに、執事のフランクベルトを呼ぶ様にと言い付ける。すぐに部屋を訪れた彼に、リリーシュはある事を頼んだのだった。

そして、待つ事数分。フランクベルトはリリーシュの予想を裏切る答えを持って、再び彼女の部屋を訪ねた。

(どうせ断られるだろうと思っていたけれど、案外聞いてみるものね)

「ルルエ。今から出来るだけ動きやすい格好で出掛けたいのだけれど、用意してもらえるかしら?」

ルルエにそう尋ねるリリーシュの表情は、どこか楽しそうに見えた。
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