ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
エリオットは、リリーシュからのプレゼントをその場で紐解いた。そして中身が飾りボタンであると分かると、彼はあからさまにガッカリしたような顔を見せたのだ。
これには、流石のリリーシュも深く傷付いた。エリオットの髪と同じヘーゼルアッシュの瞳いっぱいに涙を溜め、ドレスの裾を翻しながらその場を去った。
きっとエリオットは、仏頂面を見せながらもきちんと受け取ってくれるだろうと、リリーシュは思っていた。物腰柔らかなエリオットが自分に対してだけ冷たいことを、普段は気にもしていなかったリリーシュだが、今回だけは流せなかった。
エリオットを想い、彼の瞳と同じ色の鉱石を一生懸命探し、拙いながらも心を込めて磨いた。
飾りボタンに加工したのも、これならいつでも身に付けてもらえると考えたからだし、エリオットならそうしてくれるだろうとも思っていた。
エリオットはリリーシュの努力を知らないとはいえ、あんな風にガッカリされてはリリーシュも耐えられなかったのだ。
(ここで少しだけ気持ちを落ち着けたら、またエリオットのところに行こう)
広大な敷地内に聳えるウィンシス卿の屋敷。その中でも、ウィンシス公爵夫人自慢の庭園がリリーシュは大好きだった。
仮にも公爵家の嫡男の元を、挨拶もなしに立ち去った。幼馴染といえど礼儀を欠いてしまったことを、リリーシュは反省していた。
一緒に来た侍女のルルエもきっと今頃私を探しているはずだと、リリーシュは思った。
この時期の庭園には、色とりどりのダリアが咲き誇っている。ラズラリーのように派手好きではないが、リリーシュは華やかなダリアの花が大好きなのだ。
「リリーシュ」
花に見惚れていると、不意に名前を呼ばれる。振り返るとそこには、本日の主役であるエリオットが肩で息をしながらリリーシュを見つめていた。
「エリオット、どうして」
ここに居るのと、リリーシュはそう問いたかった。だけど頬に伸ばされたエリオットの手に驚き、最後まで言葉を紡ぐことができなかった。
白い手袋を着けたエリオットの長い指が、そっとリリーシュの目尻に触れる。彼は微かに残っていた涙の痕を、優しく擦った。
「泣いたのか、リリーシュ」
「いいえ」
「嘘を吐くな」
「吐いていないわ」
「リリーシュ」
「…少し、悲しかっただけだもん」
この時のリリーシュは、まだ九歳。公爵令嬢としての教育を受けているとはいえ、まだまだ子供だ。
本音を言えばリリーシュは、エリオットの笑顔が見たかったのだ。
「いつもの天邪鬼なエリオットも大好きだけど、お誕生日の日には笑ってほしいなって。そう思って、頑張って作ったの」
「作った?このボタンは、リリーシュが作ったのかい?」
エリオットはリリーシュから手を離し、ポケットから先程彼女が渡した小さな箱を取り出す。
「そうだよ。エリオットの綺麗な瞳の色によく似た宝石を探して、加工したの。自分で鉱山に行って採掘したんだよ?って言っても、殆ど手伝ってもらったんだけど」
「君が、僕の為に…」
エリオットが、ジッと手の中の箱を見つめる。そんな彼の瞳からポロリと涙が溢れたことに気付いたリリーシュはぎょっとして、慌てて駆け寄った。
これには、流石のリリーシュも深く傷付いた。エリオットの髪と同じヘーゼルアッシュの瞳いっぱいに涙を溜め、ドレスの裾を翻しながらその場を去った。
きっとエリオットは、仏頂面を見せながらもきちんと受け取ってくれるだろうと、リリーシュは思っていた。物腰柔らかなエリオットが自分に対してだけ冷たいことを、普段は気にもしていなかったリリーシュだが、今回だけは流せなかった。
エリオットを想い、彼の瞳と同じ色の鉱石を一生懸命探し、拙いながらも心を込めて磨いた。
飾りボタンに加工したのも、これならいつでも身に付けてもらえると考えたからだし、エリオットならそうしてくれるだろうとも思っていた。
エリオットはリリーシュの努力を知らないとはいえ、あんな風にガッカリされてはリリーシュも耐えられなかったのだ。
(ここで少しだけ気持ちを落ち着けたら、またエリオットのところに行こう)
広大な敷地内に聳えるウィンシス卿の屋敷。その中でも、ウィンシス公爵夫人自慢の庭園がリリーシュは大好きだった。
仮にも公爵家の嫡男の元を、挨拶もなしに立ち去った。幼馴染といえど礼儀を欠いてしまったことを、リリーシュは反省していた。
一緒に来た侍女のルルエもきっと今頃私を探しているはずだと、リリーシュは思った。
この時期の庭園には、色とりどりのダリアが咲き誇っている。ラズラリーのように派手好きではないが、リリーシュは華やかなダリアの花が大好きなのだ。
「リリーシュ」
花に見惚れていると、不意に名前を呼ばれる。振り返るとそこには、本日の主役であるエリオットが肩で息をしながらリリーシュを見つめていた。
「エリオット、どうして」
ここに居るのと、リリーシュはそう問いたかった。だけど頬に伸ばされたエリオットの手に驚き、最後まで言葉を紡ぐことができなかった。
白い手袋を着けたエリオットの長い指が、そっとリリーシュの目尻に触れる。彼は微かに残っていた涙の痕を、優しく擦った。
「泣いたのか、リリーシュ」
「いいえ」
「嘘を吐くな」
「吐いていないわ」
「リリーシュ」
「…少し、悲しかっただけだもん」
この時のリリーシュは、まだ九歳。公爵令嬢としての教育を受けているとはいえ、まだまだ子供だ。
本音を言えばリリーシュは、エリオットの笑顔が見たかったのだ。
「いつもの天邪鬼なエリオットも大好きだけど、お誕生日の日には笑ってほしいなって。そう思って、頑張って作ったの」
「作った?このボタンは、リリーシュが作ったのかい?」
エリオットはリリーシュから手を離し、ポケットから先程彼女が渡した小さな箱を取り出す。
「そうだよ。エリオットの綺麗な瞳の色によく似た宝石を探して、加工したの。自分で鉱山に行って採掘したんだよ?って言っても、殆ど手伝ってもらったんだけど」
「君が、僕の為に…」
エリオットが、ジッと手の中の箱を見つめる。そんな彼の瞳からポロリと涙が溢れたことに気付いたリリーシュはぎょっとして、慌てて駆け寄った。