ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
今日も今日とて開かれる、ルシフォールの無言の食事会。宮殿内にあるホールでは月に何度か晩餐会が開かれている様だが、殿下はパーティーが好きではないらしく殆ど顔を見せる事はしないらしい。
リリーシュが今食事をしているこの食堂は国王達が住まう本宮殿の中にあるのだが、今はルシフォールが引き連れてきた男性しか居ない。しかもその表情は敵でも攻めてくる予定があるのかと問いたくなる程、硬い面持ちをしている。
私とその付き添いであるルルエはとても浮いているのだが、最早リリーシュは気にしていなかった。
話し掛けても響かない相手に、いつまでも期待するのは間違っている。リリーシュは今日も一人、美味しくて見た目も美しい料理に舌鼓を打っていた。
一人で部屋で食事を摂っていた頃は肉料理ばかりだったが、それをあまり好まないルシフォール殿下の為、ここでは野菜や魚もきちんと使われた料理が提供される。リリーシュは、それをとても好ましく思っていた。
「まぁ、このお魚のソテーはとても美味しいわ。どうしてこんなに新鮮なのかしら。雪で冷やして鮮度を保っているのですか?」
「それでも可能ですが、鮮度につきましては主に天然氷を使用しています」
「天然氷?」
「はい。暑い夏の内に池の様な所に水を貯め、不純物を取り除きながら冬場に凍らせ、それを切り出して地下にある冷室に保管しておくのです。雪よりも溶けにくいので、肉や魚の鮮度を保ったまま運ぶ事が可能になります」
「そんな画期的な方法があるのですね。アンテヴェルディの家でこんなに美味しいお魚を食べた事がなかったので、とても嬉しいです」
「それは光栄でございます」
リリーシュの質問に答えてくれるのは執事のフランクベルトだけなのだが、彼女にとってはそれで十分だった。彼はとても優秀かつ博識で、ルシフォールが産まれる以前から宮殿に支えている大ベテランなのだと、ユリシスから聞いた事がある。
ユリシスの方も以前にも増してリリーシュに会いに来る様になったのだが、実を言えば彼女はそれにも困っていた。
ルシフォールに釘を刺されてしまったし、何より自分がユリシスと仲良くしていると殿下を悲しませる事になるのも嫌だった。
かといって無下には出来ないし、庭園に散歩に出掛けると必ずといって良い程ユリシスのに出くわすので、残念だがもう庭園散策は辞めた方が良いのかもしれないと考えていた。
「こんな食事ではなくもっと豪華なものを出せと、安易に責め立てているのか」
「いいえ、違います殿下。本心からそう申し上げました」
「ふん、どうだか」
(全く。とんだ捻くれ者なんだから)
しかし、一応会話に参加してくれただけマシなのかもしれない。というよりも、ルシフォールが仮にも婚約者候補とこうして食事を共にする事自体、フランクベルトは内心感涙しそうな程だった。
彼の女運の悪さを気の毒に思っているし、男色家などと噂されてはいるが特定の男性とそういった意味で懇意にしている所も見た事がない。何より、フランクベルトはリリーシュの事を気に入っていた。
王家に嫁ぐに相応しい女性であるかは判断しかねるが、少なくともルシフォールの様な臆病な性分には彼女の様な大らかで多少の事は気にしない女性が合っていると思うのだ。
幼少期の可愛らしい頃のルシフォールを知っているフランクベルトは、どうかこのまま彼が素直になってくれれば良いのにと親の様な気持ちで見守っていた。
リリーシュが今食事をしているこの食堂は国王達が住まう本宮殿の中にあるのだが、今はルシフォールが引き連れてきた男性しか居ない。しかもその表情は敵でも攻めてくる予定があるのかと問いたくなる程、硬い面持ちをしている。
私とその付き添いであるルルエはとても浮いているのだが、最早リリーシュは気にしていなかった。
話し掛けても響かない相手に、いつまでも期待するのは間違っている。リリーシュは今日も一人、美味しくて見た目も美しい料理に舌鼓を打っていた。
一人で部屋で食事を摂っていた頃は肉料理ばかりだったが、それをあまり好まないルシフォール殿下の為、ここでは野菜や魚もきちんと使われた料理が提供される。リリーシュは、それをとても好ましく思っていた。
「まぁ、このお魚のソテーはとても美味しいわ。どうしてこんなに新鮮なのかしら。雪で冷やして鮮度を保っているのですか?」
「それでも可能ですが、鮮度につきましては主に天然氷を使用しています」
「天然氷?」
「はい。暑い夏の内に池の様な所に水を貯め、不純物を取り除きながら冬場に凍らせ、それを切り出して地下にある冷室に保管しておくのです。雪よりも溶けにくいので、肉や魚の鮮度を保ったまま運ぶ事が可能になります」
「そんな画期的な方法があるのですね。アンテヴェルディの家でこんなに美味しいお魚を食べた事がなかったので、とても嬉しいです」
「それは光栄でございます」
リリーシュの質問に答えてくれるのは執事のフランクベルトだけなのだが、彼女にとってはそれで十分だった。彼はとても優秀かつ博識で、ルシフォールが産まれる以前から宮殿に支えている大ベテランなのだと、ユリシスから聞いた事がある。
ユリシスの方も以前にも増してリリーシュに会いに来る様になったのだが、実を言えば彼女はそれにも困っていた。
ルシフォールに釘を刺されてしまったし、何より自分がユリシスと仲良くしていると殿下を悲しませる事になるのも嫌だった。
かといって無下には出来ないし、庭園に散歩に出掛けると必ずといって良い程ユリシスのに出くわすので、残念だがもう庭園散策は辞めた方が良いのかもしれないと考えていた。
「こんな食事ではなくもっと豪華なものを出せと、安易に責め立てているのか」
「いいえ、違います殿下。本心からそう申し上げました」
「ふん、どうだか」
(全く。とんだ捻くれ者なんだから)
しかし、一応会話に参加してくれただけマシなのかもしれない。というよりも、ルシフォールが仮にも婚約者候補とこうして食事を共にする事自体、フランクベルトは内心感涙しそうな程だった。
彼の女運の悪さを気の毒に思っているし、男色家などと噂されてはいるが特定の男性とそういった意味で懇意にしている所も見た事がない。何より、フランクベルトはリリーシュの事を気に入っていた。
王家に嫁ぐに相応しい女性であるかは判断しかねるが、少なくともルシフォールの様な臆病な性分には彼女の様な大らかで多少の事は気にしない女性が合っていると思うのだ。
幼少期の可愛らしい頃のルシフォールを知っているフランクベルトは、どうかこのまま彼が素直になってくれれば良いのにと親の様な気持ちで見守っていた。