ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
フランクベルトからの言伝を聞いたルルエは、興奮しながらリリーシュの支度を始める。
(これって、素直に喜んで良い事なのかしら。何だかそんな気が起きないわ)
初対面の蔑む様な瞳を思い出し、リリーシュは思わず溜息を吐いた。そんな彼女を見たルルエは、大好きなお嬢様を困らせている冷血王子を憎たらしく思った。殿下からの誘いを断る事など出来はしないし、アンテヴェルディ家の為には仕方のない事ではあるが、とにかくお嬢様が傷付きません様にと、ルルエは祈りながら支度を進めた。
(だけど今日は、夕食の時よりずっと身軽だわ)
コルセットのキツい締め付けがないだけ、リリーシュはマシだと思った。
いつもより膨らみの少ない動きやすいドレスを身に纏ったリリーシュは、ルルエと共にルシフォールの住まう塔へとやって来た。相変わらず外は肌を突き刺す様な寒さだが、吸い込んだ冷たい空気はリリーシュの気分をスッキリとさせてくれる。
「やぁ、リリーシュ。ご機嫌いかがかな?」
「ユリシス様」
「いつものドレスも可愛いけど、今日の格好も素敵だね」
「ありがとうございます」
ユリシスの相変わらずの軽口に、リリーシュは適当に笑って返した。ここへ来てからもう何度ユリシスと言葉を交わしたか分からない。その結果、彼の言う事は話半分で聞いているのが一番良いと気が付いたのだ。決して悪い人間ではないのだろうが、たまに悪戯心が過ぎるというか何というか。
「お前は煩い。只でさえ寒くて苛々するのだから、少し黙っていろ」
ユリシスの後ろから、ふっとルシフォールが顔を出す。キンと冷えた外の空気に、彼の髪と目の色がとても良く映えている。相変わらず不機嫌そうではあるが、その立ち姿は正に王子そのものだった。
(殿下は、本当に黒がお似合いになるわ)
リリーシュが素直にそう思っていると、アイスブルーの瞳がジロリと彼女を睨む。
「何をニヤけている。寒さが苦手など格好がつかんと馬鹿にしているんだろう」
「まさか。殿下は黒がお似合いになると思っていただけです」
「…」
「ふふっ」
「…ユリシス」
「あぁ、ごめんごめん。さぁ、あちらへ行こうかリリーシュ。フランクベルトから聞いていると思うけど、今日は馬を見に行こう」
「はい、私本当に楽しみです」
ユリシスの言葉を聞いた途端、リリーシュの顔がぱぁっと華やぐ。先程自分を見つめていた瞳が何倍にも増してキラキラと輝いているのを見て、ルシフォールは無意識に小さく舌打ちをした。
その様子を見て、リリーシュはこう考える。
(ユリシス様が心配で、私の我儘に嫌々付き合わせれているのね。お気の毒だわ)
それもそうだ。ルシフォールの態度はどう見ても、そ・う・い・う・風にしか見えない。以前訓練場でウズウズと触りたそうにしていたリリーシュを見ていたルシフォールが今日の事を提案したと、誰が思うだろう。
ユリシスは事前に「俺が言い出したと口が裂けても言うな」とルシフォールに脅されている為、リリーシュに真実を伝えたくてもそれが出来ない。
その結果、リリーシュを気遣って誘ってくれたユリシスと、そのユリシスが心配で嫌々付き添っているルシフォールという構図が出来上がるのは、当然の事だった。
(これって、素直に喜んで良い事なのかしら。何だかそんな気が起きないわ)
初対面の蔑む様な瞳を思い出し、リリーシュは思わず溜息を吐いた。そんな彼女を見たルルエは、大好きなお嬢様を困らせている冷血王子を憎たらしく思った。殿下からの誘いを断る事など出来はしないし、アンテヴェルディ家の為には仕方のない事ではあるが、とにかくお嬢様が傷付きません様にと、ルルエは祈りながら支度を進めた。
(だけど今日は、夕食の時よりずっと身軽だわ)
コルセットのキツい締め付けがないだけ、リリーシュはマシだと思った。
いつもより膨らみの少ない動きやすいドレスを身に纏ったリリーシュは、ルルエと共にルシフォールの住まう塔へとやって来た。相変わらず外は肌を突き刺す様な寒さだが、吸い込んだ冷たい空気はリリーシュの気分をスッキリとさせてくれる。
「やぁ、リリーシュ。ご機嫌いかがかな?」
「ユリシス様」
「いつものドレスも可愛いけど、今日の格好も素敵だね」
「ありがとうございます」
ユリシスの相変わらずの軽口に、リリーシュは適当に笑って返した。ここへ来てからもう何度ユリシスと言葉を交わしたか分からない。その結果、彼の言う事は話半分で聞いているのが一番良いと気が付いたのだ。決して悪い人間ではないのだろうが、たまに悪戯心が過ぎるというか何というか。
「お前は煩い。只でさえ寒くて苛々するのだから、少し黙っていろ」
ユリシスの後ろから、ふっとルシフォールが顔を出す。キンと冷えた外の空気に、彼の髪と目の色がとても良く映えている。相変わらず不機嫌そうではあるが、その立ち姿は正に王子そのものだった。
(殿下は、本当に黒がお似合いになるわ)
リリーシュが素直にそう思っていると、アイスブルーの瞳がジロリと彼女を睨む。
「何をニヤけている。寒さが苦手など格好がつかんと馬鹿にしているんだろう」
「まさか。殿下は黒がお似合いになると思っていただけです」
「…」
「ふふっ」
「…ユリシス」
「あぁ、ごめんごめん。さぁ、あちらへ行こうかリリーシュ。フランクベルトから聞いていると思うけど、今日は馬を見に行こう」
「はい、私本当に楽しみです」
ユリシスの言葉を聞いた途端、リリーシュの顔がぱぁっと華やぐ。先程自分を見つめていた瞳が何倍にも増してキラキラと輝いているのを見て、ルシフォールは無意識に小さく舌打ちをした。
その様子を見て、リリーシュはこう考える。
(ユリシス様が心配で、私の我儘に嫌々付き合わせれているのね。お気の毒だわ)
それもそうだ。ルシフォールの態度はどう見ても、そ・う・い・う・風にしか見えない。以前訓練場でウズウズと触りたそうにしていたリリーシュを見ていたルシフォールが今日の事を提案したと、誰が思うだろう。
ユリシスは事前に「俺が言い出したと口が裂けても言うな」とルシフォールに脅されている為、リリーシュに真実を伝えたくてもそれが出来ない。
その結果、リリーシュを気遣って誘ってくれたユリシスと、そのユリシスが心配で嫌々付き添っているルシフォールという構図が出来上がるのは、当然の事だった。