ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
舞踏室の一番高く目立つ場所にある椅子に、国王陛下と王妃陛下が座る。王妃様はちらりとこちらに視線を向けると、ルシフォールではなくその隣に居るリリーシュに微笑みかけた。
リリーシュは内心緊張した面持ちで、当たり障りのない挨拶をする。すぐに舞踏会が始まり、国王陛下と王妃陛下がダンスホールの中央に進んだ。
(ルシフォール殿下は国王陛下に良く似ていらっしゃるわ)
優雅な所作でダンスを踊る二人を見ながら、リリーシュはほうっと溜息を漏らした。やはり、纏っているオーラが違うと彼女は思った。国王陛下は威厳たっぷりで、ルシフォールに良く似た美丈夫だ。女王様は凛としていて、強い意志を宿した色素の薄い瞳をしている。正に、女性が憧れる女性といった印象だ。
「おい」
「…」
「リリーシュ」
「あっ、申し訳ございません。私つい見惚れてしまって」
リリーシュは頬を紅く染めながら、ルシフォールを見つめた。今までに数度母親についてパーティに参加した事はあったけれど、こんなに華やかなものは初めてだった。
ましてや、リリーシュの席は国王陛下と王妃様のすぐ傍にあり、とても良く目立つ。リリーシュはかりそめの婚約者候補であるのに良いのかしらと気後れしながらも、初めての体験に胸を躍らせた。
「国王陛下と王妃陛下のダンスがあまりにも素晴らしくて」
「そんな事で大丈夫なのか」
「あの、殿下」
「何だ」
「殿下は私と、ダンスを踊ってくださるおつもりなのですか?」
その言葉に、ルシフォールは目を見開いた。
ーーまさかお前は俺と踊らないつもりなのか
そんな台詞が口をついて出そうになった自分に内心驚きながら、ルシフォールは努めて冷たい表情を見せた。
「体裁を保つ為には仕方がないだろう」
「光栄な事でございます」
「ふん」
(一度私と踊っておけば、他のご令嬢を断る口実になるものね)
踊りたくもない令嬢の相手をしなければならないルシフォールを気の毒に思いながら、リリーシュはそう結論づけた。
もしもルシフォールに想い人が居たとしても、その男性とは公にダンスを踊る事など出来ない。彼の心情を思うと、リリーシュは複雑だった。
せめて完璧にダンスをこなし殿下の恥にならない様努めなければと、彼女は改めて気合を入れ直した。
国王陛下と王妃陛下が終わると、次は第一王子と王太子妃のダンスだった。第一王子、つまりはルシフォールやアンクウェルの兄であるイルシス・ダ・エンポリオ・エヴァンテル殿下。キリッとしたアイスブルーの瞳が、やはりルシフォールに良く似ていた。
第二王子であるアンクウェルは、本日不参加のようだ。となれば次は、ルシフォールとリリーシュの出番。不機嫌そうな表情はいつも通りだったが、リリーシュに差し出された手はしなやかな動作だった。
緊張しながらもその手を取ったリリーシュは、意外と温かな温もりである事に内心驚く。温かいというよりも、熱く熱を持っている様に感じた。
「殿下。どうぞ宜しくお願い致します」
「…ルシフォール」
「はい?」
「こんな時には、名前を呼ぶ位の可愛げを見せたらどうだ」
「申し訳ありません。ルシフォール様」
「…」
リリーシュをエスコートしているルシフォールの手にキュッと力が込められた事に、彼女は気が付かなかった。
リリーシュは内心緊張した面持ちで、当たり障りのない挨拶をする。すぐに舞踏会が始まり、国王陛下と王妃陛下がダンスホールの中央に進んだ。
(ルシフォール殿下は国王陛下に良く似ていらっしゃるわ)
優雅な所作でダンスを踊る二人を見ながら、リリーシュはほうっと溜息を漏らした。やはり、纏っているオーラが違うと彼女は思った。国王陛下は威厳たっぷりで、ルシフォールに良く似た美丈夫だ。女王様は凛としていて、強い意志を宿した色素の薄い瞳をしている。正に、女性が憧れる女性といった印象だ。
「おい」
「…」
「リリーシュ」
「あっ、申し訳ございません。私つい見惚れてしまって」
リリーシュは頬を紅く染めながら、ルシフォールを見つめた。今までに数度母親についてパーティに参加した事はあったけれど、こんなに華やかなものは初めてだった。
ましてや、リリーシュの席は国王陛下と王妃様のすぐ傍にあり、とても良く目立つ。リリーシュはかりそめの婚約者候補であるのに良いのかしらと気後れしながらも、初めての体験に胸を躍らせた。
「国王陛下と王妃陛下のダンスがあまりにも素晴らしくて」
「そんな事で大丈夫なのか」
「あの、殿下」
「何だ」
「殿下は私と、ダンスを踊ってくださるおつもりなのですか?」
その言葉に、ルシフォールは目を見開いた。
ーーまさかお前は俺と踊らないつもりなのか
そんな台詞が口をついて出そうになった自分に内心驚きながら、ルシフォールは努めて冷たい表情を見せた。
「体裁を保つ為には仕方がないだろう」
「光栄な事でございます」
「ふん」
(一度私と踊っておけば、他のご令嬢を断る口実になるものね)
踊りたくもない令嬢の相手をしなければならないルシフォールを気の毒に思いながら、リリーシュはそう結論づけた。
もしもルシフォールに想い人が居たとしても、その男性とは公にダンスを踊る事など出来ない。彼の心情を思うと、リリーシュは複雑だった。
せめて完璧にダンスをこなし殿下の恥にならない様努めなければと、彼女は改めて気合を入れ直した。
国王陛下と王妃陛下が終わると、次は第一王子と王太子妃のダンスだった。第一王子、つまりはルシフォールやアンクウェルの兄であるイルシス・ダ・エンポリオ・エヴァンテル殿下。キリッとしたアイスブルーの瞳が、やはりルシフォールに良く似ていた。
第二王子であるアンクウェルは、本日不参加のようだ。となれば次は、ルシフォールとリリーシュの出番。不機嫌そうな表情はいつも通りだったが、リリーシュに差し出された手はしなやかな動作だった。
緊張しながらもその手を取ったリリーシュは、意外と温かな温もりである事に内心驚く。温かいというよりも、熱く熱を持っている様に感じた。
「殿下。どうぞ宜しくお願い致します」
「…ルシフォール」
「はい?」
「こんな時には、名前を呼ぶ位の可愛げを見せたらどうだ」
「申し訳ありません。ルシフォール様」
「…」
リリーシュをエスコートしているルシフォールの手にキュッと力が込められた事に、彼女は気が付かなかった。