ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
「ふふっ」
煌びやかなダンスホールを眼前に、オフィーリアは耐え切れず笑みを零した。
「楽しそうだな、オフィーリア」
隣に座るルザリオが、不思議そうな顔で彼女を見つめた。自身の三人の息子と同じ、深いブルーの瞳。オフィーリアは、この瞳の色がとても好きだった。
「そうね。色んな人間の運命を翻弄するのって、とーっても楽しいの」
豪奢な扇子を口元に当てながらそんな台詞を口にする。ルザリオは彼女の悪い癖がまた始まったと、呆れた。
オフィーリアは、決して良い性格をしている訳ではない。計算高く狡猾で強かで、自身が楽しむ為ならば他人を使う事など厭わない典型的な悪女だ。
しかし、国母としてこれ程頼もしい女性はいないと、ルザリオはそうも思っている。国王も王妃も、綺麗で純粋な心だけでは到底務まりはしない。
他人に与える愛情というものをあまり持ち合わせていないオフィーリアが、自分にだけ見せる顔がある。ルザリオはずっと誰もが難攻不落だった女性を自分が手に入れた事が、何よりも優越だった。
後は単純に、彼はオフィーリアが好みだったのだ。ルザリオも例に漏れず、一癖も二癖もある人物だった。
オフィーリアの視線の先にあるバルコニーを見たルザリオは、軽く溜息を吐く。
「アイツは只でさえ歪んでいるのだから、それが更に悪化しない様程々にな」
「ふふっ、肝に銘じておくわ」
オフィーリアはそう口にしたが、口元は楽しげに弧を描いたままだった。
「お嬢様」
舞踏室を出ると、ルルエが出迎えてくれた。付き添い人に感謝を告げ、リリーシュはにっこりと微笑む。しかしルルエの瞳は、驚く程にまん丸だった。
「どうしたの?ルルエ」
「い、いえ。何でも」
彼女の視線はあからさまにリリーシュの隣に居るルシフォールに向けられている。当のルシフォールは、居心地悪そうに視線を横に逃した。
リリーシュはその様子を気にする事なく、パッとルシフォールの方を向く。
「ルシフォール様。本日は本当にありがとうございました」
「…別に私は何も」
「本音を申し上げると、私はとても緊張していました。ですがルシフォール様のおかげで、生涯忘れられない初めての舞踏会になりましたわ」
「ふん。嬉しくもない言葉だ」
「そうですか」
リリーシュは特に気にもしていない様子だったが、やり取りを見ていたルルエは怒りを抑える為、頬をピクピクと痙攣させている。
ルシフォールの指先はそわそわと忙しなく動いていたが、暗がりでは誰もそれに気が付かなかった。
「リリーシュ」
「はい」
「…いや。何でもない」
ルシフォールは身を翻すと、そのまま足早に去っていく。その後を、護衛の従者達が慌てて追いかけていった。
「お、お嬢様!あれは一体、何なのですか!」
「まぁルルエ。そんな口を聞いてはダメよ」
「ですがお嬢様!殿下はお嬢様の名前をお呼びになっていましたよ!いつもお前、なんて失礼な呼び方だったのに」
「そうだったかしら?きっと只の気紛れよ」
「気紛れ…」
ルシフォールの変化にも驚いたが、それ以上に全く動じてもいない様子のリリーシュにも、ルルエはまん丸の瞳を向けたのだった。
煌びやかなダンスホールを眼前に、オフィーリアは耐え切れず笑みを零した。
「楽しそうだな、オフィーリア」
隣に座るルザリオが、不思議そうな顔で彼女を見つめた。自身の三人の息子と同じ、深いブルーの瞳。オフィーリアは、この瞳の色がとても好きだった。
「そうね。色んな人間の運命を翻弄するのって、とーっても楽しいの」
豪奢な扇子を口元に当てながらそんな台詞を口にする。ルザリオは彼女の悪い癖がまた始まったと、呆れた。
オフィーリアは、決して良い性格をしている訳ではない。計算高く狡猾で強かで、自身が楽しむ為ならば他人を使う事など厭わない典型的な悪女だ。
しかし、国母としてこれ程頼もしい女性はいないと、ルザリオはそうも思っている。国王も王妃も、綺麗で純粋な心だけでは到底務まりはしない。
他人に与える愛情というものをあまり持ち合わせていないオフィーリアが、自分にだけ見せる顔がある。ルザリオはずっと誰もが難攻不落だった女性を自分が手に入れた事が、何よりも優越だった。
後は単純に、彼はオフィーリアが好みだったのだ。ルザリオも例に漏れず、一癖も二癖もある人物だった。
オフィーリアの視線の先にあるバルコニーを見たルザリオは、軽く溜息を吐く。
「アイツは只でさえ歪んでいるのだから、それが更に悪化しない様程々にな」
「ふふっ、肝に銘じておくわ」
オフィーリアはそう口にしたが、口元は楽しげに弧を描いたままだった。
「お嬢様」
舞踏室を出ると、ルルエが出迎えてくれた。付き添い人に感謝を告げ、リリーシュはにっこりと微笑む。しかしルルエの瞳は、驚く程にまん丸だった。
「どうしたの?ルルエ」
「い、いえ。何でも」
彼女の視線はあからさまにリリーシュの隣に居るルシフォールに向けられている。当のルシフォールは、居心地悪そうに視線を横に逃した。
リリーシュはその様子を気にする事なく、パッとルシフォールの方を向く。
「ルシフォール様。本日は本当にありがとうございました」
「…別に私は何も」
「本音を申し上げると、私はとても緊張していました。ですがルシフォール様のおかげで、生涯忘れられない初めての舞踏会になりましたわ」
「ふん。嬉しくもない言葉だ」
「そうですか」
リリーシュは特に気にもしていない様子だったが、やり取りを見ていたルルエは怒りを抑える為、頬をピクピクと痙攣させている。
ルシフォールの指先はそわそわと忙しなく動いていたが、暗がりでは誰もそれに気が付かなかった。
「リリーシュ」
「はい」
「…いや。何でもない」
ルシフォールは身を翻すと、そのまま足早に去っていく。その後を、護衛の従者達が慌てて追いかけていった。
「お、お嬢様!あれは一体、何なのですか!」
「まぁルルエ。そんな口を聞いてはダメよ」
「ですがお嬢様!殿下はお嬢様の名前をお呼びになっていましたよ!いつもお前、なんて失礼な呼び方だったのに」
「そうだったかしら?きっと只の気紛れよ」
「気紛れ…」
ルシフォールの変化にも驚いたが、それ以上に全く動じてもいない様子のリリーシュにも、ルルエはまん丸の瞳を向けたのだった。