ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
暫く二人はその場に居たが、突然リリーシュが小さな悲鳴を上げた。
「大変!今日の主役がこんな所にいるなんて、今頃皆大騒ぎしているに違いないわ!」
わたわたと慌てるリリーシュを見て、エリオットは小さく噴き出す。
「大丈夫、両親にはちゃんと説明してからここに来たから」
「そういえばエリオット、よく私がここに居るって分かったね」
「そりゃあ分かるよ。この庭園は、リリーシュの一番のお気に入りの場所だから。今の時期はダリアも咲いているし、来るならここだろうなと思ったんだ」
「凄いわ、エリオット。大正解だわ」
素直に感心するリリーシュを見て、エリオットは再び表情を曇らせた。
「僕が傷付けたせいで、本当にごめん」
「もう、そんなに謝らないでよエリオット」
「今日のことだけじゃない。今まで、急に嫌な態度を取っていたから…」
「まぁ、そんなこと。私は別に、気にしてないよ。だってエリオットはちゃんと、私の相手をしてくれるじゃない。それだけで十分だよ」
リリーシュに、気遣っている様子はなかった。心からの本音、彼女は本当にエリオットの態度なんて気にしていなかったのだ。
それはきっと、エリオットが本心ではリリーシュを好きだと想っていたから。彼の口から紡がれる嫌味や強気な態度は、拗らせた愛情表情の裏返し。どうしたって、漏れ出ていたのだ。
だからこそリリーシュは、エリオットを中々懐かない野生動物のように可愛がることができたのだ。
「エリオットは、私のことが嫌いな訳じゃないんだよね?」
「それは…そうだよ」
「じゃあ、もう良いじゃない。昔の優しい貴方も、今のちょっと意地悪な貴方も、どっちも貴方なんだから」
リリーシュは、ヘーゼルアッシュの瞳を細めて嬉しそうに笑う。その瞬間、エリオットの中でパチンと音がした。まるで、無くしていたパズルの最後のピースがピッタリとはまったように。
「そうか…」
僕はなんてバカなんだろうと、今更ながらエリオットは思った。今すぐリリーシュと婚約させて貰えなかったからと言って拗ねて、大好きな彼女に嫌な態度を取ったりして。
エリオットの母親は、言っていた。エリオットの気持ちは元より、リリーシュの気持ちが大切なのだと。
だったら、最初からやるべきことは決まっていたじゃないか。こんなにも、簡単なことだった。
愛を伝えて、もしも彼女が離れてしまったら。それに怯えたエリオットは、自分の気持ちしか考えられていない正に子供だった。
「エリオット?」
リリーシュが、首を傾げながら彼の顔を覗き込む。エリオットは、まるで憑き物が取れたかのようににっこりと破顔した。
「ありがとう、リリーシュ。このボタン、ずっと大切にするよ」
初めて聞く、甘ったるいクリームのような彼の声色に、リリーシュの胸はトクンと高鳴る。
しかし、彼女がその胸の高鳴りの本当の意味に気付くのはもう少し先の話だった。
「大変!今日の主役がこんな所にいるなんて、今頃皆大騒ぎしているに違いないわ!」
わたわたと慌てるリリーシュを見て、エリオットは小さく噴き出す。
「大丈夫、両親にはちゃんと説明してからここに来たから」
「そういえばエリオット、よく私がここに居るって分かったね」
「そりゃあ分かるよ。この庭園は、リリーシュの一番のお気に入りの場所だから。今の時期はダリアも咲いているし、来るならここだろうなと思ったんだ」
「凄いわ、エリオット。大正解だわ」
素直に感心するリリーシュを見て、エリオットは再び表情を曇らせた。
「僕が傷付けたせいで、本当にごめん」
「もう、そんなに謝らないでよエリオット」
「今日のことだけじゃない。今まで、急に嫌な態度を取っていたから…」
「まぁ、そんなこと。私は別に、気にしてないよ。だってエリオットはちゃんと、私の相手をしてくれるじゃない。それだけで十分だよ」
リリーシュに、気遣っている様子はなかった。心からの本音、彼女は本当にエリオットの態度なんて気にしていなかったのだ。
それはきっと、エリオットが本心ではリリーシュを好きだと想っていたから。彼の口から紡がれる嫌味や強気な態度は、拗らせた愛情表情の裏返し。どうしたって、漏れ出ていたのだ。
だからこそリリーシュは、エリオットを中々懐かない野生動物のように可愛がることができたのだ。
「エリオットは、私のことが嫌いな訳じゃないんだよね?」
「それは…そうだよ」
「じゃあ、もう良いじゃない。昔の優しい貴方も、今のちょっと意地悪な貴方も、どっちも貴方なんだから」
リリーシュは、ヘーゼルアッシュの瞳を細めて嬉しそうに笑う。その瞬間、エリオットの中でパチンと音がした。まるで、無くしていたパズルの最後のピースがピッタリとはまったように。
「そうか…」
僕はなんてバカなんだろうと、今更ながらエリオットは思った。今すぐリリーシュと婚約させて貰えなかったからと言って拗ねて、大好きな彼女に嫌な態度を取ったりして。
エリオットの母親は、言っていた。エリオットの気持ちは元より、リリーシュの気持ちが大切なのだと。
だったら、最初からやるべきことは決まっていたじゃないか。こんなにも、簡単なことだった。
愛を伝えて、もしも彼女が離れてしまったら。それに怯えたエリオットは、自分の気持ちしか考えられていない正に子供だった。
「エリオット?」
リリーシュが、首を傾げながら彼の顔を覗き込む。エリオットは、まるで憑き物が取れたかのようににっこりと破顔した。
「ありがとう、リリーシュ。このボタン、ずっと大切にするよ」
初めて聞く、甘ったるいクリームのような彼の声色に、リリーシュの胸はトクンと高鳴る。
しかし、彼女がその胸の高鳴りの本当の意味に気付くのはもう少し先の話だった。