ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
アンクウェルはまず、ルシフォールが彼女の名前を呼んだ事に驚いた。そして、自ら話しかけているという事にも。
「やはり、今度は兄上を狙うつもりなのか。浅ましい」
「ルシフォール」
アンクウェルは無礼な弟を嗜めようと立ち上がる。そんな彼よりも先に、リリーシュが動いた。椅子から立ち上がると、たたっとルシフォールの元へ駆けていったのだ。
「ルシフォール様、こんな場所でお会いできるなんて。宜しければご一緒にいかがですか?」
アンクウェルは一瞬「このご令嬢は耳が悪いのか?」と勘違いしそうになった。ルシフォールは先程間違いなくリリーシュを蔑むような言葉を口にしたのに、彼女は意にも介していない様子だったからだ。
「どうせ邪魔が入ったとでも思っているんだろう」
「そんな事は思っておりません」
「ふん、どうだか。お前は嘘吐きだからな」
「まぁ、私は嘘なんて吐きません」
「吐いただろ」
「ですがあの後、私は言葉通りお傍を離れませんでしたわ」
「後では意味がない。最初に俺を置いていった事を言っているんだ」
「それは大変申し訳ありません。次からは気を付けますわ」
「次があると思っている所が図々しい」
「そうですか。では仕方ありません」
「…参加しなければまた、王妃から何を言われるか分からない。お前でも女避け位にはなるだろう」
「こんな私にも使い道があるようで何よりです、ルシフォール様」
「ふん」
「…」
何だ、これは。自分は一体何を見せられているんだと、アンクウェルは心底疑問に思った。
言葉だけを捉えるならば、ルシフォールは最低だ。普通の令嬢ならば怒ってこの場を去るか、さめざめと泣いてしまうか、恐怖で口を閉ざしてしまうか、いずれかの反応だろう。
しかしリリーシュは何食わぬ顔で、ルシフォールの嫌味をさらりと交わしている。第三者から見ていると、良いように転がされているのは何故かルシフォールの方に見えてしまうのだ。
「アンクウェル様」
ふいに名前を呼ばれ、アンクウェルは思わずビクリと肩を震わせる。ルシフォールもこちらを見てはいるが、あまり良い表情ではない。
「申し訳ございません。アンクウェル様が設けてくださった場でございますのに、私が勝手にルシフォール様をお誘いしてしまって」
「い、いや。それは構わないよ」
「ありがとうございます」
「だけどリリーシュ。ルシフォールはこういう場は…」
アンクウェルが言い終わる前に、ルシフォールは先程までリリーシュが座っていた椅子にどかりと腰を下ろす。そんな彼を見て、アンクウェルはとうとうぽかんと口を開けた。
「私は邪魔でしたか、兄上」
ジロリと睨まれ、アンクウェルは何故か悪い事が見つかったかの様な気分になる。
「まさか。そんな事ある訳ないじゃないか。来てくれて嬉しいよ、ルシフォール」
リリーシュは新たに用意された椅子に腰掛けながら、二人のやり取りをにこにこしながら見ている。
アンクウェルは、予想を遥かに超えたルシフォールの変わりようが内心まだ信じられなかった。
「やはり、今度は兄上を狙うつもりなのか。浅ましい」
「ルシフォール」
アンクウェルは無礼な弟を嗜めようと立ち上がる。そんな彼よりも先に、リリーシュが動いた。椅子から立ち上がると、たたっとルシフォールの元へ駆けていったのだ。
「ルシフォール様、こんな場所でお会いできるなんて。宜しければご一緒にいかがですか?」
アンクウェルは一瞬「このご令嬢は耳が悪いのか?」と勘違いしそうになった。ルシフォールは先程間違いなくリリーシュを蔑むような言葉を口にしたのに、彼女は意にも介していない様子だったからだ。
「どうせ邪魔が入ったとでも思っているんだろう」
「そんな事は思っておりません」
「ふん、どうだか。お前は嘘吐きだからな」
「まぁ、私は嘘なんて吐きません」
「吐いただろ」
「ですがあの後、私は言葉通りお傍を離れませんでしたわ」
「後では意味がない。最初に俺を置いていった事を言っているんだ」
「それは大変申し訳ありません。次からは気を付けますわ」
「次があると思っている所が図々しい」
「そうですか。では仕方ありません」
「…参加しなければまた、王妃から何を言われるか分からない。お前でも女避け位にはなるだろう」
「こんな私にも使い道があるようで何よりです、ルシフォール様」
「ふん」
「…」
何だ、これは。自分は一体何を見せられているんだと、アンクウェルは心底疑問に思った。
言葉だけを捉えるならば、ルシフォールは最低だ。普通の令嬢ならば怒ってこの場を去るか、さめざめと泣いてしまうか、恐怖で口を閉ざしてしまうか、いずれかの反応だろう。
しかしリリーシュは何食わぬ顔で、ルシフォールの嫌味をさらりと交わしている。第三者から見ていると、良いように転がされているのは何故かルシフォールの方に見えてしまうのだ。
「アンクウェル様」
ふいに名前を呼ばれ、アンクウェルは思わずビクリと肩を震わせる。ルシフォールもこちらを見てはいるが、あまり良い表情ではない。
「申し訳ございません。アンクウェル様が設けてくださった場でございますのに、私が勝手にルシフォール様をお誘いしてしまって」
「い、いや。それは構わないよ」
「ありがとうございます」
「だけどリリーシュ。ルシフォールはこういう場は…」
アンクウェルが言い終わる前に、ルシフォールは先程までリリーシュが座っていた椅子にどかりと腰を下ろす。そんな彼を見て、アンクウェルはとうとうぽかんと口を開けた。
「私は邪魔でしたか、兄上」
ジロリと睨まれ、アンクウェルは何故か悪い事が見つかったかの様な気分になる。
「まさか。そんな事ある訳ないじゃないか。来てくれて嬉しいよ、ルシフォール」
リリーシュは新たに用意された椅子に腰掛けながら、二人のやり取りをにこにこしながら見ている。
アンクウェルは、予想を遥かに超えたルシフォールの変わりようが内心まだ信じられなかった。