ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
「リリーシュと君は似合っていると僕は思うよ。彼女は一見慎ましやかに見えて意外と気が強いし、もしかしたら君以上に頑固かもしれないけどね」

「アイツを良く見ているんだな、お前は」

「やだなぁ今にも斬りかかりそうな顔で睨まないでよ。僕は100パーセント君の味方なんだから」

あっはっはと軽快に笑うユリシスに、ルシフォールは舌打ちをした。昔からこの従兄弟は本当に食えない男だ。しかしそんな彼の前だけでは、何故か昔からルシフォールは本音をさらけ出す事が出来た。

「最近何となく、俺を見る目が違う気がする」

「そうかなぁ、彼女が君を好きだとはまだ思えないけど」

「…」

「あぁごめん。それで?」

「優しくする方法が分からない。口から勝手に、思ってもない言葉が出てくる」

「何とも拗らせた男だね君は」

「仕方ないだろう。女など皆卑しいヤツばかりだと思っていたんだから」

「まずその考えから改めないとね。アンクウェル殿下の言う通り、リリーシュと契約結婚以上の関係になりたいのなら君が自身を変えるべきだ。彼女の為にね」

「簡単に言うがそれが出来ないから相談しているんだろ」

「出来なくてもやるんだよ。君には、最高のお手本が居るじゃないか」

「…兄上の真似はしたくない」

「じゃあ、僕とか?」

「お前は信頼性に欠ける」

「酷い言い草だなぁ」

からからと笑いながら、ユリシスは顎に手を当てた。

「そういえばルシフォール。母方の君の従兄弟、兄の方はエリオットと言ったかな。彼とは親しいのかい?」

「何だ藪から棒に」

思いもしなかった名前がこのタイミングで出てきた事に、ルシフォールはあからさまに嫌な顔をしてみせた。

「聞いた話なんだけど、彼とリリーシュは幼馴染でかなり仲が良かったみたいだよ」

「…まぁ、アンテヴェルディ家とウィンシス家の交流が深かった事は知っていた。その令息や令嬢同士が多少懇意にしていたとしても、不思議な話じゃないだろ」

「多少、ねぇ」

「俺はウィンシス家とは殆ど関わっていない。公式な場で顔を合わせる程度のものだ」

エリオットの記憶は曖昧だが、確か暗い髪色をした背の高い男だった気がする。アンクウェルの雰囲気に近かったかもしれないと、ルシフォールは朧げに思った。

「彼、君とは正反対の紳士らしいよ」

膝を組み脚に頬杖をつく様な姿勢で、ユリシスがニヤリと笑う。ルシフォールの曖昧な記憶の中のエリオットも、にこりと微笑んだ様な気がした。
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