ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
予想外に嬉しい事をされてしまったルシフォールは、キョロキョロと庭園を見回すリリーシュの顔を見る事ができなかった。
「まぁ、可愛らしい水路が流れているわ」
淡い水色のドレスを身に纏ったリリーシュは、ヘーゼルアッシュの瞳をぱちぱちと瞬かせる。冬の冷えた空気と水の流れが反射して輝いているように見えた。
相変わらず嫌味ばかり口にしてしまうルシフォールと、今日も特に気にしていない様子のリリーシュ。
(今日のルシフォール様は、何だかそわそわしているみたい)
あの舞踏会の夜がルシフォールにとって特別なものになったのと同じように、リリーシュにとっても忘れられない一夜となっていた。
垣間見たルシフォールの孤独と、自分自身が堪えていた寂しさ。受け入れたと思っていたそれは、エリオットの瞳と同じ色のドレスを身につけた瞬間、簡単に覆されたのだ。
そして今日も彼女は懲りずに、エメラルドのネックレスを身に付けているのだった。
「外が、好きなのか」
ルシフォールが一歩先を行き、リリーシュがその後ろを歩く。普段の彼からは考えられない程ゆっくりとした速度である事を、リリーシュは気付いていなかった。
「はい。アンテヴェルディ家ではあまり許されなかった事ですので」
「君の母親は厳しい人だったのか」
「厳しいという程ではないと思います。ただ、私とは価値観が違っていたというだけかと」
「今もまだ、家が恋しいと思うか?」
「二度と会えない訳ではないのですから、あまりその様には考えた事がありません」
「借金と引き換えに身売りした自分を、不憫だとは考えないのか」
口に出した後しまったと後悔しても、既に手遅れ。リリーシュの反応が怖くて、ルシフォールは振り返る事が出来なかった。
「幸運だとは思っても、不憫だとは思いませんわ」
「ふん、白々しい」
「それは申し訳ございません。殿下?」
「…意地が悪いぞ、リリーシュ」
「ふふっ」
リリーシュはわざと「殿下」と呼んだ。ルシフォールはバツの悪そうな顔をして彼女を嗜める。悪戯が成功した子供の様な顔で、リリーシュは笑った。
(ルシフォール様、少し変わられたわ)
事なかれ主義、流れに身を任せるのが当たり前のリリーシュだが、流石にルシフォールの変化には気付いた。
一番最初に顔を合わせた時と、瞳の雰囲気が全く違う。時折チラチラとこちらを伺う様に動くのが、可愛らしいとさえ思ってしまう。
あの夜、エリオットに会えない寂しさをルシフォールで埋めようとしている自分を、軽蔑した筈なのに。
傍にいると言った、咄嗟の台詞。本当はあんな事を言うつもりなどなかったのだ。
(この方とエリオットは違うのよ、リリーシュ)
他人と重ねるなど、ルシフォールに失礼だ。
「今日は、水色だな」
「えっ?あぁ、ドレスの事ですね」
ふいにそう言われて、リリーシュは慌てて笑顔を作る。
「あの夜の深緑のドレスも、まぁ。悪くはなかった」
背中越しでは、リリーシュはルシフォールの表情はが見えない。ドレスを褒められた彼女の顔から笑みが消えた事も、ルシフォールからは見えていなかった。
「まぁ、可愛らしい水路が流れているわ」
淡い水色のドレスを身に纏ったリリーシュは、ヘーゼルアッシュの瞳をぱちぱちと瞬かせる。冬の冷えた空気と水の流れが反射して輝いているように見えた。
相変わらず嫌味ばかり口にしてしまうルシフォールと、今日も特に気にしていない様子のリリーシュ。
(今日のルシフォール様は、何だかそわそわしているみたい)
あの舞踏会の夜がルシフォールにとって特別なものになったのと同じように、リリーシュにとっても忘れられない一夜となっていた。
垣間見たルシフォールの孤独と、自分自身が堪えていた寂しさ。受け入れたと思っていたそれは、エリオットの瞳と同じ色のドレスを身につけた瞬間、簡単に覆されたのだ。
そして今日も彼女は懲りずに、エメラルドのネックレスを身に付けているのだった。
「外が、好きなのか」
ルシフォールが一歩先を行き、リリーシュがその後ろを歩く。普段の彼からは考えられない程ゆっくりとした速度である事を、リリーシュは気付いていなかった。
「はい。アンテヴェルディ家ではあまり許されなかった事ですので」
「君の母親は厳しい人だったのか」
「厳しいという程ではないと思います。ただ、私とは価値観が違っていたというだけかと」
「今もまだ、家が恋しいと思うか?」
「二度と会えない訳ではないのですから、あまりその様には考えた事がありません」
「借金と引き換えに身売りした自分を、不憫だとは考えないのか」
口に出した後しまったと後悔しても、既に手遅れ。リリーシュの反応が怖くて、ルシフォールは振り返る事が出来なかった。
「幸運だとは思っても、不憫だとは思いませんわ」
「ふん、白々しい」
「それは申し訳ございません。殿下?」
「…意地が悪いぞ、リリーシュ」
「ふふっ」
リリーシュはわざと「殿下」と呼んだ。ルシフォールはバツの悪そうな顔をして彼女を嗜める。悪戯が成功した子供の様な顔で、リリーシュは笑った。
(ルシフォール様、少し変わられたわ)
事なかれ主義、流れに身を任せるのが当たり前のリリーシュだが、流石にルシフォールの変化には気付いた。
一番最初に顔を合わせた時と、瞳の雰囲気が全く違う。時折チラチラとこちらを伺う様に動くのが、可愛らしいとさえ思ってしまう。
あの夜、エリオットに会えない寂しさをルシフォールで埋めようとしている自分を、軽蔑した筈なのに。
傍にいると言った、咄嗟の台詞。本当はあんな事を言うつもりなどなかったのだ。
(この方とエリオットは違うのよ、リリーシュ)
他人と重ねるなど、ルシフォールに失礼だ。
「今日は、水色だな」
「えっ?あぁ、ドレスの事ですね」
ふいにそう言われて、リリーシュは慌てて笑顔を作る。
「あの夜の深緑のドレスも、まぁ。悪くはなかった」
背中越しでは、リリーシュはルシフォールの表情はが見えない。ドレスを褒められた彼女の顔から笑みが消えた事も、ルシフォールからは見えていなかった。