ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
ーーとまぁ。随分と過去の回想が長くなってしまったが、リリーシュとエリオットの関係性は今も変わらず幼馴染のまま。
あの誕生日パーティ以降、エリオットは再び昔のようにリリーシュに優しくなった。そしてそこに、蕩けるような甘さが加わったのだ。
初めの内、リリーシュは戸惑った。誕生日のプレゼントの件で私を泣かせてしまったことを、彼は申し訳なく思っている。だから、優しくしてくれるのだろうとその位に思っていた。
ツンとしていて行動と言動が一致しない天邪鬼なエリオットのことも、リリーシュは本当に嫌いではなかった。同様に、昔に戻ったような優しいエリオットも嫌いではない。
だけどもし彼が罪悪感からそんな行動を取っているのなら、気にすることなんてないのにとリリーシュは思っていた。
しかし、そんな彼女の考えはどうやら間違っていたようだった。優しいのは昔と同じなのだが、確実に何かが違っていた。
何が、と言われると非常に表現し辛いのだが。とにかく、リリーシュにとっては第三のエリオットが現れたような気持ちだった。
とろとろの蜂蜜のように甘い瞳で自分を見つめる彼に、リリーシュはどう反応していいのか悩んだ。そして彼女は、ある答えに辿り着いたのだ。
(エリオットは、そ・う・い・う・人なんだわ)
と。
そう答えを出してからのリリーシュの気持ちは、とても楽になった。それからはどんなに甘い顔で甘い言葉を囁かれようとも、彼女は同じように笑顔で流した。
最初の頃は私の態度に少し変な顔をしていたエリオットだったが、特に何も言われることはなく。そして日を追うごとに、彼は益々リリーシュを甘やかすようになっていったのだった。
ただ一つ、エリオットは決して”好き“だと言う台詞だけは口にしなかったが。
「ねぇ、お母様」
リリーシュはテーブルに並んだありとあらゆる料理を見つめながら、溜息を吐いた。
「なぁに?リリーシュ」
「いつも言っているのだけれど、結局捨ててしまう程の量を作る必要はないと思うの」
貴族の生活というものは、かくあるべき。もう、そんな考えは時代遅れではないかとリリーシュは思っていた。
目の前いっぱいに広がるご馳走は、確かに心が躍る。しかし、毎日である必要はない。それは、パーティーについても同じことだった。
毎夜毎夜開かれるパーティに、この頃のリリーシュはうんざりしていたのだ。そして母のラズラリーは、いつリリーシュを社交界デビューさせようか、どんな風に派手な演出をしてやろうか、最近ではそればかりしか頭になかったのだ。
今学んでいることといえば、ダンスの練習や社交界でのマナーばかり。リリーシュは本音では学校に通いたかったのだが、ラズラリーが首を縦に振らなかった。
最近では、貴族の男子だけではなく女子が学校に通うことも珍しくはない。しかしラズラリーは、女が小賢しく学を身につけるものではないと思っていた。寄宿制という点も、心配だったのだろう。
父親であるワトソンはラズラリーがこうだといえば喜んでそれに従うし、兄は我関せずと言った様子で自分だけしれっと学校生活を謳歌している。
エリオットだって学校に入ってしまってからは会える時間が減ってしまったし、友人と呼べるほど懇意にしている令嬢は彼の妹であるリザリアだけ。
彼女が忙しい時は専ら屋敷内の使用人達に声を掛けて回り、相手をしてもらっていた。
(デビュタントに興味がないとは言えないけれど、本音を言えば憂鬱だわ)
豪華な料理に殆ど手を付けることなく、社交界デビューでリリーシュが身に付ける宝石の話を嬉々として話しているラズラリーを見て、彼女は内心深い溜息を吐いたのだった。
あの誕生日パーティ以降、エリオットは再び昔のようにリリーシュに優しくなった。そしてそこに、蕩けるような甘さが加わったのだ。
初めの内、リリーシュは戸惑った。誕生日のプレゼントの件で私を泣かせてしまったことを、彼は申し訳なく思っている。だから、優しくしてくれるのだろうとその位に思っていた。
ツンとしていて行動と言動が一致しない天邪鬼なエリオットのことも、リリーシュは本当に嫌いではなかった。同様に、昔に戻ったような優しいエリオットも嫌いではない。
だけどもし彼が罪悪感からそんな行動を取っているのなら、気にすることなんてないのにとリリーシュは思っていた。
しかし、そんな彼女の考えはどうやら間違っていたようだった。優しいのは昔と同じなのだが、確実に何かが違っていた。
何が、と言われると非常に表現し辛いのだが。とにかく、リリーシュにとっては第三のエリオットが現れたような気持ちだった。
とろとろの蜂蜜のように甘い瞳で自分を見つめる彼に、リリーシュはどう反応していいのか悩んだ。そして彼女は、ある答えに辿り着いたのだ。
(エリオットは、そ・う・い・う・人なんだわ)
と。
そう答えを出してからのリリーシュの気持ちは、とても楽になった。それからはどんなに甘い顔で甘い言葉を囁かれようとも、彼女は同じように笑顔で流した。
最初の頃は私の態度に少し変な顔をしていたエリオットだったが、特に何も言われることはなく。そして日を追うごとに、彼は益々リリーシュを甘やかすようになっていったのだった。
ただ一つ、エリオットは決して”好き“だと言う台詞だけは口にしなかったが。
「ねぇ、お母様」
リリーシュはテーブルに並んだありとあらゆる料理を見つめながら、溜息を吐いた。
「なぁに?リリーシュ」
「いつも言っているのだけれど、結局捨ててしまう程の量を作る必要はないと思うの」
貴族の生活というものは、かくあるべき。もう、そんな考えは時代遅れではないかとリリーシュは思っていた。
目の前いっぱいに広がるご馳走は、確かに心が躍る。しかし、毎日である必要はない。それは、パーティーについても同じことだった。
毎夜毎夜開かれるパーティに、この頃のリリーシュはうんざりしていたのだ。そして母のラズラリーは、いつリリーシュを社交界デビューさせようか、どんな風に派手な演出をしてやろうか、最近ではそればかりしか頭になかったのだ。
今学んでいることといえば、ダンスの練習や社交界でのマナーばかり。リリーシュは本音では学校に通いたかったのだが、ラズラリーが首を縦に振らなかった。
最近では、貴族の男子だけではなく女子が学校に通うことも珍しくはない。しかしラズラリーは、女が小賢しく学を身につけるものではないと思っていた。寄宿制という点も、心配だったのだろう。
父親であるワトソンはラズラリーがこうだといえば喜んでそれに従うし、兄は我関せずと言った様子で自分だけしれっと学校生活を謳歌している。
エリオットだって学校に入ってしまってからは会える時間が減ってしまったし、友人と呼べるほど懇意にしている令嬢は彼の妹であるリザリアだけ。
彼女が忙しい時は専ら屋敷内の使用人達に声を掛けて回り、相手をしてもらっていた。
(デビュタントに興味がないとは言えないけれど、本音を言えば憂鬱だわ)
豪華な料理に殆ど手を付けることなく、社交界デビューでリリーシュが身に付ける宝石の話を嬉々として話しているラズラリーを見て、彼女は内心深い溜息を吐いたのだった。