ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
翌日、午前中に執務を詰め込み終わらせたルシフォールは、リリーシュを自身の住まう宮殿に呼んだ。なんと、ルシフォール自ら中を案内してくれるとの事でリリーシュはとても驚いた。
国王の住まう主宮殿の様に煌びやかな造りではないものの、荘厳としていて心なしか空気が凛と澄んでいる気がする。調度品も上質なものがセンス良く配置されていて、リリーシュはこちらの方がずっと好みだと内心思った。
裾の広がりが少ないモーヴピンクのドレスに、アッシュグレーの髪は編み込んで緩くアップに纏めている。比較的落ち着いた色も良く似合っていると、ルシフォールは心の中で彼女を褒めた。
(噂通り、すれ違う方達は皆男性なのね)
訓練場の時はもちろんだったが、やはり宮殿内も女性の姿は見当たらない。メイド達がいなくて細やかな所に目が行き届くのだろうかと、リリーシュは疑問に思う。
彼女はルシフォールが女嫌いになった経緯を詳しくは知らないが、何か余程の事があったのだろうと推察していた。立場的にもきっと苦労してきたのだろうと。
ルシフォールの女性を徹底的に排除した生き方を否定するつもりもないが、こうも周囲が男性だらけだとやはり男色家という噂は間違っていないのではないかと、穿った見方をしてしまう。
「お前が今考えている事は大体予想がつくが、断じて違うからな」
「まぁ。ルシフォール様に心を読まれてしまいました」
「…リリーシュ。前にも言ったが、俺は男色家じゃない」
「はい、分かっております」
「本当か?本当だな?」
「ふふっ、本当です」
隣を歩きながら、リリーシュはくすくすと笑う。慌てた様なルシフォールの表情を、可愛いと思ってしまった。
(本当に昔のエリオットみたい)
無意識の内に、彼女はルシフォールにエリオットの姿を重ねる。そうして浮かべた彼女の笑みはあまりにも優しげで、ルシフォールは一瞬で目を奪われた。
「ルシフォール様?」
足を止めたルシフォールを振り返り、リリーシュは彼の名を呼ぶ。
ルシフォールの手がゆっくりとリリーシュへと伸び、手袋をつけている彼女の手にふわりと指先が触れた。
ただ、布越しに指先が触れ合っているだけ。それだけなのに、ルシフォールの体は溶けてなくなってしまいそうな程に、熱を帯びていた。
「リリーシュ」
「はい」
「俺はお前の事が好きだ」
その瞬間彼に重なっていたエリオットの姿がパッと消え、まるでアイスブルーの瞳に囚われた様に視線を逸らせなくなった。
「ルシフォール、さま」
「好きなんだリリーシュ。こんな感情は初めてだ。お前の事が、片時も頭から離れない。もっともっとお前を知りたくて堪らなくなる。まさか自分が、こんな風になるなんて思いもしなかった」
ルシフォールの指先に、クッと力が込もる。ビクリと反応したリリーシュは、思わず一歩後退る。そんな彼女の様子に傷つきながらも、ルシフォールは決して手を離そうとはしなかった。
「好きだ、リリーシュ」
何故だか一瞬、リリーシュは泣いてしまいそうになった。
国王の住まう主宮殿の様に煌びやかな造りではないものの、荘厳としていて心なしか空気が凛と澄んでいる気がする。調度品も上質なものがセンス良く配置されていて、リリーシュはこちらの方がずっと好みだと内心思った。
裾の広がりが少ないモーヴピンクのドレスに、アッシュグレーの髪は編み込んで緩くアップに纏めている。比較的落ち着いた色も良く似合っていると、ルシフォールは心の中で彼女を褒めた。
(噂通り、すれ違う方達は皆男性なのね)
訓練場の時はもちろんだったが、やはり宮殿内も女性の姿は見当たらない。メイド達がいなくて細やかな所に目が行き届くのだろうかと、リリーシュは疑問に思う。
彼女はルシフォールが女嫌いになった経緯を詳しくは知らないが、何か余程の事があったのだろうと推察していた。立場的にもきっと苦労してきたのだろうと。
ルシフォールの女性を徹底的に排除した生き方を否定するつもりもないが、こうも周囲が男性だらけだとやはり男色家という噂は間違っていないのではないかと、穿った見方をしてしまう。
「お前が今考えている事は大体予想がつくが、断じて違うからな」
「まぁ。ルシフォール様に心を読まれてしまいました」
「…リリーシュ。前にも言ったが、俺は男色家じゃない」
「はい、分かっております」
「本当か?本当だな?」
「ふふっ、本当です」
隣を歩きながら、リリーシュはくすくすと笑う。慌てた様なルシフォールの表情を、可愛いと思ってしまった。
(本当に昔のエリオットみたい)
無意識の内に、彼女はルシフォールにエリオットの姿を重ねる。そうして浮かべた彼女の笑みはあまりにも優しげで、ルシフォールは一瞬で目を奪われた。
「ルシフォール様?」
足を止めたルシフォールを振り返り、リリーシュは彼の名を呼ぶ。
ルシフォールの手がゆっくりとリリーシュへと伸び、手袋をつけている彼女の手にふわりと指先が触れた。
ただ、布越しに指先が触れ合っているだけ。それだけなのに、ルシフォールの体は溶けてなくなってしまいそうな程に、熱を帯びていた。
「リリーシュ」
「はい」
「俺はお前の事が好きだ」
その瞬間彼に重なっていたエリオットの姿がパッと消え、まるでアイスブルーの瞳に囚われた様に視線を逸らせなくなった。
「ルシフォール、さま」
「好きなんだリリーシュ。こんな感情は初めてだ。お前の事が、片時も頭から離れない。もっともっとお前を知りたくて堪らなくなる。まさか自分が、こんな風になるなんて思いもしなかった」
ルシフォールの指先に、クッと力が込もる。ビクリと反応したリリーシュは、思わず一歩後退る。そんな彼女の様子に傷つきながらも、ルシフォールは決して手を離そうとはしなかった。
「好きだ、リリーシュ」
何故だか一瞬、リリーシュは泣いてしまいそうになった。