裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?

10.競りとは、双方の落とし所を探す時間である。

 パトリシアと共同戦線を張る。
 基本裏稼業は単独プレイしかしないグレイにとってそれは危険な賭けではあるけれど。
 パトリシアは人間とは違い、多少放置したところで死ぬことはない。
 それに、パトリシアは奪われた何かを追って異界を渡ったのだという。彼女の言葉を信じるならば、パトリシア以外に境界線を越えた異界者が紛れ込んでいる可能性が高い。
 パトリシアは決して弱くはない。その上異界の能力を使う。このレベルを同時に相手にするのは、グレイとしても避けたいところ。

「……分かった」

 どうせ、初めから身の安全の保証などありはしない。
 それならばこのくだらない諍いを終わらせる可能性が高い方を選ぶほうが建設的だろう。
 などと判断したことをグレイは僅か数時間後には後悔することになる。

「さて、オークションに出品するには、とびきりの(商品)が必要ですわね」

 飛び入り参加が認められるくらいの。
 そう言ったパトリシアの唇が綺麗な弧を描いたところまでは覚えている。

「縛りプレイって、俺がされる側かよ!?」

 気づいた時には目隠しをされ、指錠で拘束され、檻の中に入れられていた。
 確かにパトリシアが囮を引き受ける、なんて一言も言わなかったが、一般的に高値で売れるのは女子ども。
 オークションに出すというのなら、中身はともかく見た目は自分より売れそうなのはパトリシアの方なのに。

「なんて、悪魔相手に考えるだけ無駄だな」

 助けてもらえるなんて希望的観測は持たないほうが賢明か、とグレイは外の喧騒に耳を澄ませながら状況を整理する。
 絶望に泣き伏せる声。
 怒りの限り叫ぶ声。
 懸命に媚びようとする甘ったるい声。
 それらを嘲笑うかのような、狂気と好奇がないまぜになった不快な声。
 一言で表すなら、混沌。
 この場にパトリシアがいたら、まぁなんて素敵♡などと宣って目を輝かせそうだ。

「……ユズリハ」

 それらの音を聞きながらグレイはぽつり、と名前をつぶやく。

「ユズ。お前が聞いた最期の音が、見た光景がこんな最低なモノじゃなければいいんだけどな」

 視界が奪われた暗闇の中で、グレイは忘れたことのない過去を回想する。
< 17 / 54 >

この作品をシェア

pagetop