裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
「……タマ……切れ?」
紅い瞳は驚いたように目を瞬く。
「こっちは毎度毎度そこの節操なしに襲われてるんだ。多少なりとお前達がどういう存在なのかも知っているし、その能力が万能でない事も知っている」
グレイはそう言いながらパトリシアを親指で指さす。
「まぁ、旦那さま。私、確かに空腹の代償は旦那さまに払って頂いておりますけれど、お約束通り他を襲ってなどおりません。こんな一途な乙女に節操なしだなんて、失礼ですわ」
撤回を求めますとぷくっと頬を膨らませ心外だと抗議するパトリシアに、
「所構わず襲ってくるだろうが」
欲望に忠実過ぎると眉間に皺を寄せるグレイ。
「旦那さまが自ら進んで色仕掛けに来てくだされば私も多少なりと控えますわよ?」
「ぜってぇ、嫌」
「ならこれから先も四の五の言わずに私に襲われてくださいな♪」
追いかけっこは嫌いじゃないですよ? とパトリシアはグレイの腕に絡みつく。
「……どういう、ことよ」
2人のやり取りを聞いても理解できず、地べたに転がされたまま睨んでくる紅い瞳に、
「アンタ、こっちでの戦いに慣れてないだろ」
異界大戦前とは事情が違うんだよ、とグレイは拾い上げた銃を片手に冷たく告げる。
「お前達悪魔の序列と力の程度は知らないが、今までパトリシアを観察していて分かったことがある」
グレイが実際に遭遇した悪魔はパトリシアだけなので、彼女以外のサンプルがなかったが嫉妬と対峙した事で仮定が確信に変わった。
悪魔がこちら側で実在するのにも、能力を行使するのにも、それを可能にするだけのエネルギーが必要。そして一昔前とは違い境界線が明確に引かれた現代では、定められた誓約によって彼らはこちら側での活動に著しく制限を受けるのだ、と。
「エネルギーが著しく消費されれば、補給しなくてはならない。が、こいつは誰彼構わず食い荒らすことはしない」
「美食家ですから」
ふふっと口角を上げ、旦那さまは美味ですよと褒めるパトリシア。
「1ミリも嬉しくねぇな」
いつものやり取りを軽く流したグレイは、
「境界線が引かれて以降、こちら側に来たアンタ達には誓約がかかっている」
と嫉妬に告げる。
「それが、なんだっていうのよ」
睨みつけてくる紅色の瞳を見下ろしながらグレイは淡々と説明を続ける。
「ヒトの魂が必要なら、そこら中にいる人間を手当たり次第喰い散らかせばいい。無抵抗な人間だ。悪魔からすれば赤子の手を捻るより容易いだろう」
グレイは今までのパトリシアとの生活を振り返る。
現世に来てから何も食べていないのだと空腹を訴えたパトリシアは、
『このお家で食べられるモノなんて旦那さまくらいですわね』
と夜這いに来た。
この悪魔が快楽主義者の傾向にあることを差し引いても殺し屋と空腹時にやり合うことは効率が悪いはずだ。
パトリシアが唯一喰おうとした相手は猫殺しの犯人。あれだけ町にヒトが溢れていたにも拘らず、だ。
そこから推察できることは一つだけ。
「できないんだろ。罪人以外を喰うことが」
自称美食家のパトリシアが美味だと言って自分に執着する意味を理解してグレイは薄く笑う。
『旦那さまを育てて美味しく頂く』
すでにこの両手は真っ赤だというのに、全く悪い冗談だとグレイは内心で舌打ちする。
「そして、お前たちが得られる魔力とやらは喰った相手の罪の重さによって異なる」
嫉妬が攻撃に使う球体の大きさや威力がバラバラだった理由はこれで説明がつく。
「数えたところ、ここの客席は50席。一番罪が重そうなコールトンの命は刈り取ったあとだ。お前にもう使える魂はない」
グレイはそう言って銃口を嫉妬に向け、
「お前の敗因はここにいる人間の罪の程度も碌に把握せず数だけを頼りに異能を使い過ぎたことだ」
終わりだ、と終焉を告げた。
紅い瞳は驚いたように目を瞬く。
「こっちは毎度毎度そこの節操なしに襲われてるんだ。多少なりとお前達がどういう存在なのかも知っているし、その能力が万能でない事も知っている」
グレイはそう言いながらパトリシアを親指で指さす。
「まぁ、旦那さま。私、確かに空腹の代償は旦那さまに払って頂いておりますけれど、お約束通り他を襲ってなどおりません。こんな一途な乙女に節操なしだなんて、失礼ですわ」
撤回を求めますとぷくっと頬を膨らませ心外だと抗議するパトリシアに、
「所構わず襲ってくるだろうが」
欲望に忠実過ぎると眉間に皺を寄せるグレイ。
「旦那さまが自ら進んで色仕掛けに来てくだされば私も多少なりと控えますわよ?」
「ぜってぇ、嫌」
「ならこれから先も四の五の言わずに私に襲われてくださいな♪」
追いかけっこは嫌いじゃないですよ? とパトリシアはグレイの腕に絡みつく。
「……どういう、ことよ」
2人のやり取りを聞いても理解できず、地べたに転がされたまま睨んでくる紅い瞳に、
「アンタ、こっちでの戦いに慣れてないだろ」
異界大戦前とは事情が違うんだよ、とグレイは拾い上げた銃を片手に冷たく告げる。
「お前達悪魔の序列と力の程度は知らないが、今までパトリシアを観察していて分かったことがある」
グレイが実際に遭遇した悪魔はパトリシアだけなので、彼女以外のサンプルがなかったが嫉妬と対峙した事で仮定が確信に変わった。
悪魔がこちら側で実在するのにも、能力を行使するのにも、それを可能にするだけのエネルギーが必要。そして一昔前とは違い境界線が明確に引かれた現代では、定められた誓約によって彼らはこちら側での活動に著しく制限を受けるのだ、と。
「エネルギーが著しく消費されれば、補給しなくてはならない。が、こいつは誰彼構わず食い荒らすことはしない」
「美食家ですから」
ふふっと口角を上げ、旦那さまは美味ですよと褒めるパトリシア。
「1ミリも嬉しくねぇな」
いつものやり取りを軽く流したグレイは、
「境界線が引かれて以降、こちら側に来たアンタ達には誓約がかかっている」
と嫉妬に告げる。
「それが、なんだっていうのよ」
睨みつけてくる紅色の瞳を見下ろしながらグレイは淡々と説明を続ける。
「ヒトの魂が必要なら、そこら中にいる人間を手当たり次第喰い散らかせばいい。無抵抗な人間だ。悪魔からすれば赤子の手を捻るより容易いだろう」
グレイは今までのパトリシアとの生活を振り返る。
現世に来てから何も食べていないのだと空腹を訴えたパトリシアは、
『このお家で食べられるモノなんて旦那さまくらいですわね』
と夜這いに来た。
この悪魔が快楽主義者の傾向にあることを差し引いても殺し屋と空腹時にやり合うことは効率が悪いはずだ。
パトリシアが唯一喰おうとした相手は猫殺しの犯人。あれだけ町にヒトが溢れていたにも拘らず、だ。
そこから推察できることは一つだけ。
「できないんだろ。罪人以外を喰うことが」
自称美食家のパトリシアが美味だと言って自分に執着する意味を理解してグレイは薄く笑う。
『旦那さまを育てて美味しく頂く』
すでにこの両手は真っ赤だというのに、全く悪い冗談だとグレイは内心で舌打ちする。
「そして、お前たちが得られる魔力とやらは喰った相手の罪の重さによって異なる」
嫉妬が攻撃に使う球体の大きさや威力がバラバラだった理由はこれで説明がつく。
「数えたところ、ここの客席は50席。一番罪が重そうなコールトンの命は刈り取ったあとだ。お前にもう使える魂はない」
グレイはそう言って銃口を嫉妬に向け、
「お前の敗因はここにいる人間の罪の程度も碌に把握せず数だけを頼りに異能を使い過ぎたことだ」
終わりだ、と終焉を告げた。