裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?

15.安息とは、自宅に戻るまで得られないものである。

「……終わった、のか?」

 パトリシアの周囲から禍々しいほどの圧が消え、グレイが声をかける。

「一応、コレに関しては終わりです。私の探し物ではなかったですけれど」

 掌で真紅の結晶を弄ぶパトリシアは、グレイの問いかけに答える。

「ハズレって事か?」

「先程"嫉妬"が言っていたように、彼女は私の階級証(称号紋)を所持しておりませんでした」

 パトリシアは嫉妬(エンヴィ)から奪い取ったそれを階級証(称号紋)と呼び、グレイに真紅の結晶を見せる。

「コレは、存在の証であると同時にその特性に応じて様々な権限が付与されるアイテム」

 故に、我々は常にコレを欲しているのですとパトリシアはグレイに説明する。

「とはいえ、さっきあの子が自分で言っていたように、これだけの事を起こせる力があの子にあったとは思えませんし。"嫉妬"にヒトの臓器への執着はない」

 "嫉妬"の執着対象は"美"ですからと眉根を寄せるパトリシア。

「心臓はコールトンが集めていたんじゃないのか?」

「屍体愛好家なのに、ですか?」

 グレイの問いかけに問いかけで返すパトリシア。

「私の認識では、その手の類の人間は一部を蒐集して満足するような存在ではなかったかと」

 パトリシアの指摘によくよく思い出して見ればコールトンはパトリシアを認識し、空の胸部に歓喜した。動く屍体と。
 では、一体誰が? 
 何の目的で?
 そもそもコールトンの言った"あの方"は本当に嫉妬(エンヴィ)だったのか?
 考え込んでしまったグレイに白い指を伸ばしたパトリシアは、

「まぁ、難しいお顔」

 凛々しいお顔も好きですけどと言いながらぐぐーっと眉間の皺を伸ばそうとする。

「って、何してやがる」

 やめろっと払ったグレイに、

「人間とは笑っていないと不幸になってしまう生き物なのだそうですよ」

 と優しげに笑うパトリシア。

「だから、どこ情報だそれは」

 すっかり毒気を抜かれたグレイは、呆れた口調でパトリシアを見る。
 先程嫉妬(エンヴィ)と対峙していた時に感じた禍々しさはなく、お疲れ様でしたとまるで猫のように擦り寄ってくるパトリシアにうっかり情がうつりそうになったグレイは慌てて首を振った。
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