裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
「だから、あなたがいるほうが勝率が上がる、と?」

 勘違いも甚だしい。
 パトリシアは嘲笑し、首を振る。

「渡り合うどころか、囮にもならない。いるだけではっきり言って邪魔なのです」

 人間らしく、不様に地べたに寝転がっていてはいかがです? と連れて行く気はないとそう尊大に言い放ったパトリシアに、

「なら、何故パトリシアはまだここにいる?」

 グレイはその手を掴み問いかける。

「見捨てるなりあの場で食糧として喰うなり、選択肢は他にもあったはずだ」

 生かす方が難しい、といったパトリシアはどこまでも効率重視で。
 そこには"情"などといった人間の原動力に成り得るものは介在しない。
 だとすれば、そうせざるを得ない理由があるはずだ。

「俺はお前に多少なりと、気に入られてはいるんだろう。が、リスクを冒してまで俺を連れ帰るなんて合わないんだよ」

 今までのパトリシアの行動と、とグレイは矛盾点を指摘する。

「縛りプレイとやらの条件に、俺の生存が関係するんだろ」

 悪魔である以上、パトリシアもこちら側では誓約を受けている。
 
「だとすれば、その縛りプレイが達成されなかった場合、パトリシアはどうなるんだろうな」

 トンっと自身の心臓を指差したグレイは、

「悪いな。俺が怖いのは、死ぬことじゃねぇんだよ」

 監視下に置いた方が手間は少ないだろ、と言って言葉を締め括った。

「……脅し、のつもりですか?」

「脅しになっているなら良かった」

 うーんと唸ったパトリシアが宙を仰ぎ思案すること数秒。

「私の旦那さまはとっても面倒臭いですわね」

 出てきた言葉はいつもの軽口だった。

「お前ほどじゃねぇよ」

「まぁ、そんなにお褒めいただいても何も出せませんわ」

 肩をすくめたパトリシアは、

「本当は私の正体(真名)にも気づいていらっしゃるのでしょう?」

 と尋ねる。

「さて、な? 解答権は一回きり。使える手札は取っておく派なんだよ」

「左様でございますか」

 唇で綺麗な弧を描くと、

「ユズリハの現在の契約者は私。"傲慢"ではございません」

 ヒトの身では悪魔との二重契約はできませんからとパトリシアはグレイに告げる。

「私的には心地よくはあるのですけれど、話を聞く気があるのなら殺気をお納めください、旦那さま」

 パトリシアに指摘され、大きく息を吐いたグレイは、

「続き、話せ」

 と先を促す。

「及第点、と言ったところですわね」

 ふふっと笑ったパトリシアは、どこから話しましょうかと空色の瞳を瞬かせ、

「それは、ヒトの歴史でいうところの遥か大昔。それでも私達にとっては、昨日の事のように鮮明に覚えている確かにあった過去の出来事ですわ」

 静かに物語のはじまりについて話しはじめた。
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