裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
20.真相とは、身近なところに転がっているものである。
「運命?」
「ほら、以前申し上げたではありませんか? 悪魔とは、自分のことを初めて打ち負かした相手を宿命の伴侶と定める生き物なのです、と」
まぁ、それ自体は嘘なんですけどと肩をすくめたパトリシアは、
「そんな二人だったのです」
どこか羨ましそうにそう口にした。
パトリシアのその表情は、まるで人間のようで。
「悪魔が愛を語るなど、やはり可笑しいとお思いになりますでしょうか?」
パトリシアの問いにグレイは静かに首を振る。
「パトリシアがそうだと思ったのなら、きっとそれがお前にとっての真実なんだろう」
人間だの悪魔だのといったカテゴリーで括り特権を主張することに意味はない気がした。
「……ありがとうございます」
「礼を言われることなんて何もしてないが」
グレイは真っ直ぐ空色の瞳を捉え、
「それが、ユズリハとどう関係するのかが全く分からない」
と続きを促す。
きっと何を言ってもグレイは揺らがない。
そう確信したパトリシアは、
「そうですね、あなたには知る権利が十分にありますわ」
これは機密事項ですと前置きをして、説明する。
「クロアの魂は現世に適合できず長くは生きられない欠陥品でした。そして、欠陥品であるが故に細工が施せた」
「細工?」
「転生する際、クロアの記憶を魂に保存するという細工です」
「……転……生?」
それなりに技術と魔力が必要ですけれどと頷いたパトリシアは、
「今世のクロアの名は"ユズリハ"。あなたの妹です」
グレイの知りたかった秘密を明かした。
パトリシアの言葉が理解できず、グレイは何度も咀嚼する。
が、何度噛み砕いても上手く飲み込めず、
『はい、そうですか』
なんて簡単に言えるわけもない。
いっそいつもみたいに、
『まぁ、旦那さまったら。こんな与太話を信じたのですか?』
と揶揄いを存分に含めた口調で茶化して欲しかった。
だけど、パトリシアはそうしない。
ただじっとグレイのことを見つめ返し、静かにグレイの言葉を待っている。
「ユズは、何も覚えてなんかいなかった」
グレイが吐き出したのは、記憶の中の妹の姿。
白銀の髪を持つ身体の弱い妹は、詐欺師とは程遠く、心優しい普通の女の子だった。
「思い出したのは、あちらに渡ってからですわ」
はじめは酷く混乱していました、とパトリシアは淡々と事実を述べる。
「しばらくは大変だったのですよ? お家に帰りたい、って子どもみたいに泣き喚いて」
それはそうだろうとグレイは思う。
たった十歳の子どもが悪魔に取り囲まれて怯えないわけがない。
「ふふ。お風呂にはアヒルさんが欲しいなんて強請るので、その辺で狩ってきて泳がせてみたら目を輝かせてましたわ」
旦那さまと違って。とパトリシアはユズリハのその後を語る。
「お前、それ向こうでもやったのかよ!?」
そして妹は喜んだのかよ、と思わず突っ込むグレイ。
「なんやかんやであちらに馴染んだあとは魔王さまに会いに行きたいの、と私に強請るときはいつもペンライト振り回してましたし」
いつもチカチカさせてましたよ? とペンライトを取り出すパトリシア。
「モールス信号だな、多分」
そういえばうちでも暗号ごっことか言ってやってたなぁと思い出すグレイ。
「仲良しになるには双子コーデがオススメってうちのケロベロス達に揃いの衣装を着せておりましたし」
おかげで見分けがつくようになりましたわと話すパトリシア。
他にも、と諸々のエピソードを聞いたグレイは大きくため息をついて、
「お前の人間情報の出典先って」
恐る恐る尋ねるも。
「ほぼユズリハですわね。近年コチラに渡る事などありませんでしたし」
ズバッと予想通りの答えが返ってきた。
「ほら、以前申し上げたではありませんか? 悪魔とは、自分のことを初めて打ち負かした相手を宿命の伴侶と定める生き物なのです、と」
まぁ、それ自体は嘘なんですけどと肩をすくめたパトリシアは、
「そんな二人だったのです」
どこか羨ましそうにそう口にした。
パトリシアのその表情は、まるで人間のようで。
「悪魔が愛を語るなど、やはり可笑しいとお思いになりますでしょうか?」
パトリシアの問いにグレイは静かに首を振る。
「パトリシアがそうだと思ったのなら、きっとそれがお前にとっての真実なんだろう」
人間だの悪魔だのといったカテゴリーで括り特権を主張することに意味はない気がした。
「……ありがとうございます」
「礼を言われることなんて何もしてないが」
グレイは真っ直ぐ空色の瞳を捉え、
「それが、ユズリハとどう関係するのかが全く分からない」
と続きを促す。
きっと何を言ってもグレイは揺らがない。
そう確信したパトリシアは、
「そうですね、あなたには知る権利が十分にありますわ」
これは機密事項ですと前置きをして、説明する。
「クロアの魂は現世に適合できず長くは生きられない欠陥品でした。そして、欠陥品であるが故に細工が施せた」
「細工?」
「転生する際、クロアの記憶を魂に保存するという細工です」
「……転……生?」
それなりに技術と魔力が必要ですけれどと頷いたパトリシアは、
「今世のクロアの名は"ユズリハ"。あなたの妹です」
グレイの知りたかった秘密を明かした。
パトリシアの言葉が理解できず、グレイは何度も咀嚼する。
が、何度噛み砕いても上手く飲み込めず、
『はい、そうですか』
なんて簡単に言えるわけもない。
いっそいつもみたいに、
『まぁ、旦那さまったら。こんな与太話を信じたのですか?』
と揶揄いを存分に含めた口調で茶化して欲しかった。
だけど、パトリシアはそうしない。
ただじっとグレイのことを見つめ返し、静かにグレイの言葉を待っている。
「ユズは、何も覚えてなんかいなかった」
グレイが吐き出したのは、記憶の中の妹の姿。
白銀の髪を持つ身体の弱い妹は、詐欺師とは程遠く、心優しい普通の女の子だった。
「思い出したのは、あちらに渡ってからですわ」
はじめは酷く混乱していました、とパトリシアは淡々と事実を述べる。
「しばらくは大変だったのですよ? お家に帰りたい、って子どもみたいに泣き喚いて」
それはそうだろうとグレイは思う。
たった十歳の子どもが悪魔に取り囲まれて怯えないわけがない。
「ふふ。お風呂にはアヒルさんが欲しいなんて強請るので、その辺で狩ってきて泳がせてみたら目を輝かせてましたわ」
旦那さまと違って。とパトリシアはユズリハのその後を語る。
「お前、それ向こうでもやったのかよ!?」
そして妹は喜んだのかよ、と思わず突っ込むグレイ。
「なんやかんやであちらに馴染んだあとは魔王さまに会いに行きたいの、と私に強請るときはいつもペンライト振り回してましたし」
いつもチカチカさせてましたよ? とペンライトを取り出すパトリシア。
「モールス信号だな、多分」
そういえばうちでも暗号ごっことか言ってやってたなぁと思い出すグレイ。
「仲良しになるには双子コーデがオススメってうちのケロベロス達に揃いの衣装を着せておりましたし」
おかげで見分けがつくようになりましたわと話すパトリシア。
他にも、と諸々のエピソードを聞いたグレイは大きくため息をついて、
「お前の人間情報の出典先って」
恐る恐る尋ねるも。
「ほぼユズリハですわね。近年コチラに渡る事などありませんでしたし」
ズバッと予想通りの答えが返ってきた。