裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?

21.デートとは、互いを知るために行うものである。

 デートと称してパトリシアが連れて行かれた先は、観光名所の一つである大聖堂だった。

「傷は、まだ痛みますか?」

「いや、大したことはない」

 実際ズタズタに引き裂かれたとは思えないほどの治り具合で、傷跡こそ痛々しいがパトリシアのおかげで動くのに支障はなかった。

「それよりもお前はこういう場所に立ち入って平気なのか?」

 まぁ、グレイの受け持ちしている教会でも最前列でペンライトを振り回していたくらいだ。
 多分大丈夫なのだろうけど、と思いつつグレイはパトリシアに尋ねる。

「旦那さま。そういうことは普通連れてくる前に確認するべき事項ですわ」

 ふふっと楽しそうに笑ったパトリシアはステンドグラスを眺めながら、

「旦那さまのお言葉をお借りするなら"お前の悪魔情報ほぼほぼ間違ってんぞ"ですわ」

 綺麗ですねとグレイの方を見返した。

「それにしても随分とヒトの多い」

 物珍しげに視線を流していたパトリシアの空色の瞳は一点を見つめ、止まる。

「……クロア」

「そう、大聖女クロア・ファリシア」

 大聖堂に飾られたそれは異界大戦の象徴と戒め。
 この国の人間なら一度は目にしたことがある像の前で足を止めたパトリシアはただじっとそれを見つめる。
 パトリシアの目に懐かしさと哀惜の色が宿る。

「お花、あげてもいいですか?」

 パトリシアは大聖女の足元に供えられた沢山の花と花売りを指差しグレイに尋ねる。

「ヒトとは、そうやって死を悼む生き物なのでしょう?」

 我々にはない文化ですけど、と言ったパトリシアに、

「ああ、そうだな」

 と肯定したグレイは花束を購入し、パトリシアに渡す。
 ヒトの中に混ざり膝を折って手を組み目を閉じて祈るパトリシアの姿は、人間と何も変わらなくて。
 随分長い間そうしていたパトリシアが立ち上がるまで、グレイは静かに待っていた。
< 38 / 54 >

この作品をシェア

pagetop