裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
大聖堂を後にして、街中をふらりと歩いた後は露天でいくつか食べ物を買い込んで、見晴らしが良い展望台にやってきた。
寒さのせいか人気はなく、世界から切り取られたようにひっそりとしていた。
「食べるか?」
差し出されたパンをじっと眺めたパトリシアはゆっくり首を振る。
不要な嗜好品を味わえるほどの力がもうパトリシアの中には残っていなかった。
それを誤魔化すように、パトリシアは静かに口を開く。
「少しだけ、クロアが言っていた事が理解できた気がします」
「なんて、言っていたんだ?」
「世界はとても残酷で、誰にでも平等に冷たくて。でも時々びっくりするくらい美しいから、手を伸ばさずにはいられないのだと」
何もない空に向かって手を伸ばすパトリシアは、
「ああ、きっとクロアは顔も知らない神様とやらではなくて、自分自身に誓っていたのですね。こうでありたい、と」
腑に落ちたように静かにそう口にする。
「きっと、あなたもそうなのでしょう。得体の知れない存在に縋らず、祈らず、自身の力で切り開く」
決めてしまったのですね、と空色の瞳はグレイの覚悟を拾い上げる。
「俺のところにユズリハが戻ってこなくても、それをユズリハが自分で決めたならそれで良い。ユズリハがどこかで生きているほうが、ずっといい」
たとえ、異界の一員になって二度と会えなくなったとしても。
妹がユズリハとして生きているならそれだけで。
「だから、そのためにできることならなんだってする」
シーブルーのその目は一切の迷いはなくそう言い切る。
「俺の事はともかく、今のユズリハはお前の事も分からないようだった。アレは、傲慢の能力なんだろう」
傲慢は異界大戦の記録に数多く記されていた。
つまりそれだけ多く人前に現れ、ヒトと接触し、その異能を晒していたということ。
ヒトのような取るに足らない存在に、異能がバレたところで痛くも痒くもないと言わんばかりに。
過去の記録と実際に遭って認知すらできなかった事情を照らし合わせたグレイは、
「傲慢の能力。多分、幻惑なんて生易しいものではない。あれは事象の改竄だ」
そう結論付ける。
時間も記憶も捻じ曲げて、過去を造り変える異能。
他者を踏み躙るその存在はまさしく"傲慢"。
「傲慢の異能で事象が改竄されるなら、仮に銃弾が届いてもなかった事になる。だとすれば人間の俺には、ユズリハのあの状態を解く術がない」
「そうですね。一度の対面でそこまでご理解頂けるだなんてさすが旦那さまですわ」
グレイの言葉を肯定したパトリシアは、
「説明の手間が省けました。ですから、旦那さまは大人しく」
グレイを置いて行こうとする。
「だが、手がないわけではない」
そんなパトリシアの言葉を遮ったグレイは、
「アイツは、ユズリハが"命じた"途端に嫌な気配が跳ね上がった。ということは、傲慢も例に漏れず盟約に縛られ"制約を受けている」
そうさせないための言葉を重ねる。
「俺一人なら到底無理だろう。そして何らかの制約を受けているパトリシアもユズリハが"命じた"状態の傲慢相手では分が悪い」
一人で行かせまいとパトリシアの手を掴んだグレイは、
「敵が同じで目的も同じ。なら、協力し合う理由にはならないか?」
縛りプレイが好きなんだろ? と挑発した。
寒さのせいか人気はなく、世界から切り取られたようにひっそりとしていた。
「食べるか?」
差し出されたパンをじっと眺めたパトリシアはゆっくり首を振る。
不要な嗜好品を味わえるほどの力がもうパトリシアの中には残っていなかった。
それを誤魔化すように、パトリシアは静かに口を開く。
「少しだけ、クロアが言っていた事が理解できた気がします」
「なんて、言っていたんだ?」
「世界はとても残酷で、誰にでも平等に冷たくて。でも時々びっくりするくらい美しいから、手を伸ばさずにはいられないのだと」
何もない空に向かって手を伸ばすパトリシアは、
「ああ、きっとクロアは顔も知らない神様とやらではなくて、自分自身に誓っていたのですね。こうでありたい、と」
腑に落ちたように静かにそう口にする。
「きっと、あなたもそうなのでしょう。得体の知れない存在に縋らず、祈らず、自身の力で切り開く」
決めてしまったのですね、と空色の瞳はグレイの覚悟を拾い上げる。
「俺のところにユズリハが戻ってこなくても、それをユズリハが自分で決めたならそれで良い。ユズリハがどこかで生きているほうが、ずっといい」
たとえ、異界の一員になって二度と会えなくなったとしても。
妹がユズリハとして生きているならそれだけで。
「だから、そのためにできることならなんだってする」
シーブルーのその目は一切の迷いはなくそう言い切る。
「俺の事はともかく、今のユズリハはお前の事も分からないようだった。アレは、傲慢の能力なんだろう」
傲慢は異界大戦の記録に数多く記されていた。
つまりそれだけ多く人前に現れ、ヒトと接触し、その異能を晒していたということ。
ヒトのような取るに足らない存在に、異能がバレたところで痛くも痒くもないと言わんばかりに。
過去の記録と実際に遭って認知すらできなかった事情を照らし合わせたグレイは、
「傲慢の能力。多分、幻惑なんて生易しいものではない。あれは事象の改竄だ」
そう結論付ける。
時間も記憶も捻じ曲げて、過去を造り変える異能。
他者を踏み躙るその存在はまさしく"傲慢"。
「傲慢の異能で事象が改竄されるなら、仮に銃弾が届いてもなかった事になる。だとすれば人間の俺には、ユズリハのあの状態を解く術がない」
「そうですね。一度の対面でそこまでご理解頂けるだなんてさすが旦那さまですわ」
グレイの言葉を肯定したパトリシアは、
「説明の手間が省けました。ですから、旦那さまは大人しく」
グレイを置いて行こうとする。
「だが、手がないわけではない」
そんなパトリシアの言葉を遮ったグレイは、
「アイツは、ユズリハが"命じた"途端に嫌な気配が跳ね上がった。ということは、傲慢も例に漏れず盟約に縛られ"制約を受けている」
そうさせないための言葉を重ねる。
「俺一人なら到底無理だろう。そして何らかの制約を受けているパトリシアもユズリハが"命じた"状態の傲慢相手では分が悪い」
一人で行かせまいとパトリシアの手を掴んだグレイは、
「敵が同じで目的も同じ。なら、協力し合う理由にはならないか?」
縛りプレイが好きなんだろ? と挑発した。