裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
「現代において境界線を渡るのは禁忌。通行料分の存在が消滅した気分はどうだ?」

「大したことありませんわ。私とクロアの思い出(過去)をあなたに穢された屈辱に比べれば」

 パトリシアの空色の瞳が揺らぐ。
 そこには"怒り"が読み取れ、傲慢(プラド)は嗤う。

「いい顔になったじゃないか」

 魔王が眠りについてから500年。
 かつて異界の覇権を争うほどの実力者だった彼女は、粛々と命令を遵守してきた。
 友との約束だけを心の支えにして。
 現代において境界線を越えるということは、上級悪魔であっても簡単なことではない。そこに生まれた僅かな隙をついてユズリハを奪い、過去を改竄し、彼女の支えを踏み躙ってやった。
 何をしても気にも留めないとお高くとまっていた悪魔()の顔が怒りに歪む。
 だが、異界ではない現世(ここ)で彼女に為す術はない。
 その事実は傲慢(プラド)をひどく満足させた。

「哀れだな。階級証(称号紋)がない今のお前はその身体なしにこちらに留まれない。つまり、脆弱な入れ物の耐久性以上の力を出せないってことだ」

 そう言った傲慢(プラド)は一方的でパトリシアが死なないような攻撃を加え、屋根の上に組み伏せるとその背中に手を突き刺すと身体をぐちゃぐちゃと掻き回す。

「……屈辱ですわ。こうも好き勝手に身体を弄られるなんて」

 睨んでいた空色の目が苦痛に歪む。
 痛みを存分に与えながら、傲慢(プラド)は目的のものを見つけると強引にパトリシアの身体から引き抜く。
 現れたのは、真っ黒な黒い羽。

「片羽だけ、だと?」

「あげてしまいましたの」

 愛しい方に、とにやっと口角をあげるパトリシア。

「それよりも、触りましたわね? 私の魔力に」

 いつも通りの楽しげな口調でそう言ったパトリシアは、

階級証(称号紋)の力を所持していないと扱えないのは下の下。アレは私の一部。どうしようもなく惹かれ合う」

 身に覚えがあるでしょう? と囁く。

「喰らいなさい」

 歌うようにそう言ったパトリシアに応えるように、水色の紋章が傲慢(プラド)の身体に浮かび上がる。

「バカなっ、自爆する気か!?」

 パトリシアを踏みつけて引き剥がそうとする傲慢(プラド)

「大喰らいの階級証(称号紋)をあなたが宥めるのが先か、それとも私の入れ物が朽ちるのが先か、all-or-nothing というやつですわ」

 だが、パトリシアはそう言って傲慢(プラド)の腕を離さない。
 階級証(称号紋)によってどんどん傲慢(プラド)の魔力が喰らわれていく。その魔力は全て階級証(称号紋)を通してパトリシアに還元される。
 力押しの悪魔にその原動力である魔力を盗られるのが一番厄介だ。
 だが、今なら。

「コレごとお前を処分すれば済む話だ」

 そう判断した傲慢(プラド)は胸元から水色の光を放つ球体(パトリシアの称号紋)を取り出して、

「お遊びはここまでだ」

 とパトリシアに告げる。
 その瞬間パンっと乾いた音が辺りに響き、傲慢(プラド)が持っていた水色の階級証(称号紋)が砕け散った。
< 44 / 54 >

この作品をシェア

pagetop