裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
悪魔同士の争いは熾烈を極めた。
どちらも引かず、破壊の限りを尽くしたまさに地獄絵図。
パトリシアが事前に現世に干渉させない結界を張っていなかったら、この街は文字通り瓦礫の山と化していただろう。
「ああ、本当に気に食わない」
こんなはずではなかったと傲慢に焦りが見え始める。
全てを喰らい尽くし、己の力として行使する暴食。この状況を変えるには、彼女を乱す隙がいる。
傲慢は干渉されないように閉じ込めたユズリハを見てニヤッと笑うと、
「まだ早いが、できなくもない」
そういってユズリハを世界から隔絶させた過去をなかったことにした。
途端、戦闘の中心地にユズリハの身体は放り出される。
傲慢は声も出せないユズリハに向かって真っ黒な矢を大量に放つ。
「ユズリハっ」
落ちるユズリハを庇うように抱きしめ、パトリシアは羽を広げ盾にする。
降り注ぐ矢は容赦なくパトリシアの羽を射抜き、悪魔の象徴を消失させ、パトリシアはそのまま地面に墜落した。
「あははははははっ! そんなモノを庇うからだ暴食。お前は地に這いつくばって鍵が壊されるのを見ているといい」
そう言って傲慢が高笑いした瞬間だった。
バン、と轟いたのは一発の銃声。
それは傲慢の目に的中した。
「…………はっ?」
傲慢は内側から身を焼かれるような耐え難い痛みととめどなく流れ出る魔力に膝を折る。
「狙い通り。さすがですね、旦那さま」
取り戻したユズリハを安全な場所に移し終えたパトリシアは傲慢の前に姿を現すと、グレイの仕事をそう評価する。
「な……ぜ、だ?」
「"傲慢"。あなたならきっと全てを見届けるその目に階級証を隠すだろうと思っておりました」
"傲慢"は昔から自信家ですから、とパトリシアは淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
「あなたの力を無効化するなら、あなたの存在ごと消すしかないと思いまして」
「……全部、この一手のための囮か」
「ええ。だって七大悪魔の称号を失くしてしまえば、あなたという存在を引き留めてくれるヒトなんていないでしょう?」
私と違って、と傲慢《プラド》を見下ろすパトリシアの側に身を潜めていたグレイが姿を見せる。
『あまり長くは持ちません』
パトリシアには今日が始まる前にそう宣言されていた。
強力な代わりに燃費が悪いのだといったパトリシアが自我を保ち、現世に干渉しないように動ける時間はおよそ10分。
『囮は私が引き受けます。ですから、あなたが仕留めてください』
分が悪いと察したらアレは必ず動きます、と言ったパトリシア。
彼女がグレイに渡したのは一発の銃弾。
銃弾では仕留められないのではないか、と尋ねたグレイに首を振ったパトリシアは、
『できますわ。だってそれは神様が自らの手で私達悪魔を仕留めるために作った特別製ですもの』
昔、何かの役に立つかもとちょろまかしましたの、と悪びれずにそう言った。
『私にその銃弾は扱えませんけれど、あなたは私達と違って"神様"とやらに愛されていますので』
暴発する事なく撃てるでしょう、と告げる。
なお訝しげなグレイに特別サービスだと言って見せてくれたのは、その背に生えた真っ黒な羽。
『この色は、私の誇り。私が私であるために挑んだ証ですわ』
カッコいいでしょ、と片方しかないその羽を自慢げに広げる。
異界に住まう悪魔とは、遥か昔神様に挑み敗れ、異界に堕とされた存在なのだと教典で読んだ記憶がある。
だが、どうやらそれは間違いだったようだとグレイは認識を改める。
彼女は自ら選んだのだ。神の加護と引き換えに、自由であるということを。
『難しく考えないでくださいな、旦那さま。あなたはただいつも通り"殺す"だけ』
そして、私はいつも通り面白そうな方にベットする。
小首を傾げ、真っ赤な唇に指をあてたパトリシアは悪魔らしく楽しげにふふっと笑う。
『任せましたよ、グレイ』
思い返せばパトリシアから名前を呼ばれたのはこれが初めてだった。
彼女にとって存在を明確に示す"名"とは特別なものなのだとグレイは思う。
対等な存在として渡された、銃弾。その切り札は何より信頼できる。
だから、グレイは神経を研ぎ澄ませその時を待つ事ができた。
「あなたはいつも自分より弱い存在に目を向けない」
それがあなたと私の差ですわと言ったパトリシアは、
「これで本当に"さようなら"です、傲慢」
終焉を告げた。
どちらも引かず、破壊の限りを尽くしたまさに地獄絵図。
パトリシアが事前に現世に干渉させない結界を張っていなかったら、この街は文字通り瓦礫の山と化していただろう。
「ああ、本当に気に食わない」
こんなはずではなかったと傲慢に焦りが見え始める。
全てを喰らい尽くし、己の力として行使する暴食。この状況を変えるには、彼女を乱す隙がいる。
傲慢は干渉されないように閉じ込めたユズリハを見てニヤッと笑うと、
「まだ早いが、できなくもない」
そういってユズリハを世界から隔絶させた過去をなかったことにした。
途端、戦闘の中心地にユズリハの身体は放り出される。
傲慢は声も出せないユズリハに向かって真っ黒な矢を大量に放つ。
「ユズリハっ」
落ちるユズリハを庇うように抱きしめ、パトリシアは羽を広げ盾にする。
降り注ぐ矢は容赦なくパトリシアの羽を射抜き、悪魔の象徴を消失させ、パトリシアはそのまま地面に墜落した。
「あははははははっ! そんなモノを庇うからだ暴食。お前は地に這いつくばって鍵が壊されるのを見ているといい」
そう言って傲慢が高笑いした瞬間だった。
バン、と轟いたのは一発の銃声。
それは傲慢の目に的中した。
「…………はっ?」
傲慢は内側から身を焼かれるような耐え難い痛みととめどなく流れ出る魔力に膝を折る。
「狙い通り。さすがですね、旦那さま」
取り戻したユズリハを安全な場所に移し終えたパトリシアは傲慢の前に姿を現すと、グレイの仕事をそう評価する。
「な……ぜ、だ?」
「"傲慢"。あなたならきっと全てを見届けるその目に階級証を隠すだろうと思っておりました」
"傲慢"は昔から自信家ですから、とパトリシアは淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
「あなたの力を無効化するなら、あなたの存在ごと消すしかないと思いまして」
「……全部、この一手のための囮か」
「ええ。だって七大悪魔の称号を失くしてしまえば、あなたという存在を引き留めてくれるヒトなんていないでしょう?」
私と違って、と傲慢《プラド》を見下ろすパトリシアの側に身を潜めていたグレイが姿を見せる。
『あまり長くは持ちません』
パトリシアには今日が始まる前にそう宣言されていた。
強力な代わりに燃費が悪いのだといったパトリシアが自我を保ち、現世に干渉しないように動ける時間はおよそ10分。
『囮は私が引き受けます。ですから、あなたが仕留めてください』
分が悪いと察したらアレは必ず動きます、と言ったパトリシア。
彼女がグレイに渡したのは一発の銃弾。
銃弾では仕留められないのではないか、と尋ねたグレイに首を振ったパトリシアは、
『できますわ。だってそれは神様が自らの手で私達悪魔を仕留めるために作った特別製ですもの』
昔、何かの役に立つかもとちょろまかしましたの、と悪びれずにそう言った。
『私にその銃弾は扱えませんけれど、あなたは私達と違って"神様"とやらに愛されていますので』
暴発する事なく撃てるでしょう、と告げる。
なお訝しげなグレイに特別サービスだと言って見せてくれたのは、その背に生えた真っ黒な羽。
『この色は、私の誇り。私が私であるために挑んだ証ですわ』
カッコいいでしょ、と片方しかないその羽を自慢げに広げる。
異界に住まう悪魔とは、遥か昔神様に挑み敗れ、異界に堕とされた存在なのだと教典で読んだ記憶がある。
だが、どうやらそれは間違いだったようだとグレイは認識を改める。
彼女は自ら選んだのだ。神の加護と引き換えに、自由であるということを。
『難しく考えないでくださいな、旦那さま。あなたはただいつも通り"殺す"だけ』
そして、私はいつも通り面白そうな方にベットする。
小首を傾げ、真っ赤な唇に指をあてたパトリシアは悪魔らしく楽しげにふふっと笑う。
『任せましたよ、グレイ』
思い返せばパトリシアから名前を呼ばれたのはこれが初めてだった。
彼女にとって存在を明確に示す"名"とは特別なものなのだとグレイは思う。
対等な存在として渡された、銃弾。その切り札は何より信頼できる。
だから、グレイは神経を研ぎ澄ませその時を待つ事ができた。
「あなたはいつも自分より弱い存在に目を向けない」
それがあなたと私の差ですわと言ったパトリシアは、
「これで本当に"さようなら"です、傲慢」
終焉を告げた。