裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?

25.暴食とは、自分の意志で食べ尽す行為のことである。

「なるほど、やはりお前と俺は相容れないようだ」

 狂ったように嗤った傲慢(プラド)は、

「奥の手を隠しているのは自分だけだとでも思ったか? 暴食(ベルゼ)

 圧倒的な力があれば脆弱な存在に頼る必要なんてないと傲慢に言い放ち手を翳す。
 何が起きたのか、パトリシアにも瞬時には理解できなかった。

「……旦那……さま?」

 パトリシアはピンク色の瞳を大きく見開く。
 目に映ったのは身体中を真っ黒な矢で派手に貫かれ、血を流し倒れたままピクリともしないグレイの姿。
 それは先程パトリシアの片方しかない羽を貫き、悪魔としての象徴を完全に消失させた攻撃と全く同じ物だった。

「ふふ、あははは!! そろそろフィナーレと行こうじゃないか、暴食(ベルゼ)

 堕ちるときはお前も一緒だ、と片目を失くした傲慢(プラド)が叫ぶ。
 傲慢(プラド)の魔力に呼応して、真っ黒な矢が流星群のように降り注ぐ。

「旦那さまっ!!」

 傲慢(プラド)の攻撃からグレイを庇いながらパトリシアは一旦戦線離脱。
 先ほどまで争っていたエリアから距離を取るとグレイの状態を確認した。
 グレイの身体からは止めどなく血が流れ続け、特殊な魔力で切り裂かれた傷口はどうやっても塞がらない。

「嫌、ですっ」

 ぎゅっと、パトリシアはグレイのことを抱きしめる。
 どんどんグレイの体から生命力が流れ落ちていく。
 それを止める術はなく、その先にあるものが死であるとパトリシアは誰よりもよく知っている。
 今までいくつもの命を刈り取ってきた。その営みは、悪魔であるパトリシアにとって当たり前の日常であったというのに。
 グレイが死ぬ。
 その当たり前だけはどうしても受け入れられそうになくて。
 パトリシアは傲慢(プラド)を葬り去るために残していたわずかばかりの魔力を全てグレイに注ぎ込む。
 死なないで、と祈りながら。
 パトリシアの魔力が枯渇した瞬間、気だるげに開かれたシーブルーの瞳と目があった。
 グレイは少しだけ微笑むとほとんど力の入らない指先でパトリシアのブルーパープルの髪を引き、唇を動かす。
 音として発することがなかった言葉を伝え終わると、グレイの身体から完全に力が抜け、再び目は閉じられた。
 グレイの身体から、淡く水色の光を放つ球体がふわりと抜け出す。
 罪禍の魂。
 それは、パトリシアにとって何よりのご馳走であり、力の源。
 
「旦那……さま」

 パトリシアは慈しむように愛しげに、その魂に唇を寄せ口付ける。

『た・べ・ろ』

 それがグレイの最期の言葉。

「あなたは、なんて残酷なのでしょう?」

 パトリシアはそうつぶやくと、ゆっくりとその魂を喰らった。
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