大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 江陽は、動揺を隠せず――けれど、私の手を握り締め言った。

「――確かに、そんな話はあった。でも、就職する時に、跡を継ぐ事は無ぇし、結婚もしねぇって言ったはずなんだよ」
「でも、大叔父さんの事だから、右から左でしょ。あの人、自分が、爺さんと作った会社への執着が半端ないし」
「けど、それは、お前には関係無いだろ。継ぎたきゃ、勝手に継げよ」
 江陽は、そう言い切ると、弟をにらんだ。
 けれど、慣れているのか、彼は、あっさりと話を続ける。

「いや、だから、ボクから見て、相応しいか確認して欲しいって、大叔父さんに言われてさ。下手な女に引っかかったら、グループの恥さらしになっちゃうでしょ?」

「――テメェ」

「――という訳なので、羽津紀さん」

 憤る江陽と対照的に、あくまで、にこやかに――冷静に彼は、私に言った。


「ウチの事情もあるので、早々に別れてもらえます?今なら、まだ、戸籍に傷がつかなくて済みますから」


「翔陽、いい加減にしろっ!」

 怒鳴りつける江陽を見上げ、彼は、笑う。

「兄さんだって、跡継げって言われるの覚悟で、ウチに戻って来たんだよね?そもそも、ボクは、兄さんと一緒にグループ継ぐつもりだし」
「羽津紀、違う!コイツが勝手に言ってるだけだ!」

 私は、次々と入ってくる情報に、どんどん混乱してくる。
 一体、何が本当なのか。

「でも、大叔父さんは、自分が用意した相手以外の結婚なんて認めないって言ってるし。早めに別れた方が、お互い身の為ってヤツでしょう?」
「翔陽、お前――」

 跡を継ぐとか、結婚相手が用意されているとか――まったくの初耳。

 ――けれど、一つだけ、わかった事がある。

 私は、前に出ていた江陽を押しのけ、彼の前に出た。

「――お気遣い、ありがとうございます。――けれど、私達(ひと)の結婚をどうこう言うには、人生経験、まったく足りていないのでは?」

「――は?」

 彼は、一瞬、何を言われたかわからなかったようだが、次には、みるみる顔が赤くなる。

「な、何っ……をっ……!」

「ああ、わからないようなら、かみ砕いてあげましょうか?」

 私は、大きく息を吐くと、続けた。


「結婚した事もないお子様(・・・)が、好き勝手言って、ドヤってるんじゃないって言ってるの!こっちは、正式に手順を踏んで婚約してるんだから、反対するなら、それ相応の材料持ってきなさい!!!」


「――う、羽津紀」


 思わぬ反論に、江陽まで動揺する。
 けれど、私は、そのまま踵を返すが――振り返り、付け加えた。

「悪いけど、私達、貴重な時間を、無駄な事に費やすヒマは無いの。どうぞ、暗くならないうちに、おウチへお帰りになったらいかが?」
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