大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
呆然としながら、立ち尽くしている弟くんを置き去りに、私は、スタスタと歩き出す。
「ま、待ってよー、羽津紀ー!」
「羽津紀!」
聖と江陽の二人が、慌てて追いかけてくるが、足は止めない。
――何なのよ、あのガキ!
思わず、心の中で毒づいてしまう。
たとえ、江陽の弟だろうが――言い方というものがあるだろう。
いくら事実とはいえ、人の外見を揶揄するような言い方は問題外。
そんな事もわからないお子様に、これ以上、相手はできないし、したくもない。
私は、憤るままに歩き続け――会社借り上げのマンションが見えた辺りで、振り返った。
「う、羽津紀、スーパー、こっちじゃないよ?」
すぐ後ろまで来ていた聖が、たじろぎながら呼びかける。
「――腹の虫がおさまらないわ。夕飯作りはキャンセル。このまま、いつもの居酒屋、行かない?」
一瞬、キョトンとした聖は、次には、こちらが見惚れるほどの笑顔でうなづいた。
「うん!」
「じ、じゃあ、オレも――」
「――そうね」
割って入って江陽を見上げ――にらみつける。
それに怯んだヤツへと、私は、言った。
「――アンタには、いろいろと聞きたい事があるしね」
「……お、おう……」
そう言って、私は、居酒屋方面へと方向を変え、足を進める。
二人は、若干気まずそうについてきた。
いつもの一・五倍ほどの速さで歩き、到着したお店の自動ドアをくぐると、いつもの店員さんが、わかったようにやって来る。
「いらっしゃいませ、今日は、三名様でよろしいでしょうか」
「ええ。――個室って空いているかしら?」
話しているうちにヒートアップしそうな予感がするので、せめて、他人様に邪魔にならないように、と、奥にある個室を見やると、彼は、うなづいて返す。
「ああ、ハイ。予約はありませんので、どうぞ」
奥に案内され、突き当りを左に曲がると、そこには、五、六人ほどが入れる個室が三室並んでいる。
宴会用の広いものは、二階と三階にあるので、人の出入りは、そう多くはない。
私達は、促されるまま、一番奥の部屋へと案内され、掘りごたつの座敷に腰を下ろした。
「では、お決まりになりましたら、お呼びください」
そう言って、途中でお盆に乗せたお冷とおしぼりを置き、お辞儀をすると、店員さんは、ふすまを閉めた。
奥に聖を座らせ、手前に私。向かいに江陽。
この二年で、いつもの配置になってしまった。
――聖を奥に座らせるのは、できるだけ、他人の目から隠したいから。
酔っぱらった聖は、可愛さと色気も兼ね備えてしまうので、横を通り過ぎて行く男共の、いやらしい視線が向かうのを避けるためだ。
私は、置かれたお冷に口をつけ、大きく息を吐いた。
「――で、江陽。――一体、どういう事なのかしら?」
ジロリ、と、ヤツを見やる。
「……っと……」
苦りながらも口を開こうとした江陽は、チラリと、聖に視線を向けてから、私を見た。
おそらく、言って良いものなのかという確認だろう。
「大丈夫よ。聖には、むしろ、事情を知っておいてもらった方が、この先やりやすいわ」
「――わかった」
うなづいた江陽は、けれど、先にメニュー表を持つと、私に向けた。
「けど、まあ、先に注文済ませちまおうぜ。話してるうちにイラつくだろうから」
「――それもそうね」
私は、それを受け取ると、聖と二人でのぞき込む。
「あ、季節メニュー変わってるよー!」
「あら、じゃあ、コレ頼む?」
「うん!」
二人でアレコレ悩んで決め、店員を呼ぶと、一通り頼む。
そして、アルコール類とお通しがやって来ると、江陽は、早速口をつけた。
「――まず、何から話せば良い?」
「最初からよ。聖が置いてきぼりになるわ」
「了解」
そう言ってヤツはうなづき、弟が何故、あのような事を言って来たのか、話し始めたのだった。
「ま、待ってよー、羽津紀ー!」
「羽津紀!」
聖と江陽の二人が、慌てて追いかけてくるが、足は止めない。
――何なのよ、あのガキ!
思わず、心の中で毒づいてしまう。
たとえ、江陽の弟だろうが――言い方というものがあるだろう。
いくら事実とはいえ、人の外見を揶揄するような言い方は問題外。
そんな事もわからないお子様に、これ以上、相手はできないし、したくもない。
私は、憤るままに歩き続け――会社借り上げのマンションが見えた辺りで、振り返った。
「う、羽津紀、スーパー、こっちじゃないよ?」
すぐ後ろまで来ていた聖が、たじろぎながら呼びかける。
「――腹の虫がおさまらないわ。夕飯作りはキャンセル。このまま、いつもの居酒屋、行かない?」
一瞬、キョトンとした聖は、次には、こちらが見惚れるほどの笑顔でうなづいた。
「うん!」
「じ、じゃあ、オレも――」
「――そうね」
割って入って江陽を見上げ――にらみつける。
それに怯んだヤツへと、私は、言った。
「――アンタには、いろいろと聞きたい事があるしね」
「……お、おう……」
そう言って、私は、居酒屋方面へと方向を変え、足を進める。
二人は、若干気まずそうについてきた。
いつもの一・五倍ほどの速さで歩き、到着したお店の自動ドアをくぐると、いつもの店員さんが、わかったようにやって来る。
「いらっしゃいませ、今日は、三名様でよろしいでしょうか」
「ええ。――個室って空いているかしら?」
話しているうちにヒートアップしそうな予感がするので、せめて、他人様に邪魔にならないように、と、奥にある個室を見やると、彼は、うなづいて返す。
「ああ、ハイ。予約はありませんので、どうぞ」
奥に案内され、突き当りを左に曲がると、そこには、五、六人ほどが入れる個室が三室並んでいる。
宴会用の広いものは、二階と三階にあるので、人の出入りは、そう多くはない。
私達は、促されるまま、一番奥の部屋へと案内され、掘りごたつの座敷に腰を下ろした。
「では、お決まりになりましたら、お呼びください」
そう言って、途中でお盆に乗せたお冷とおしぼりを置き、お辞儀をすると、店員さんは、ふすまを閉めた。
奥に聖を座らせ、手前に私。向かいに江陽。
この二年で、いつもの配置になってしまった。
――聖を奥に座らせるのは、できるだけ、他人の目から隠したいから。
酔っぱらった聖は、可愛さと色気も兼ね備えてしまうので、横を通り過ぎて行く男共の、いやらしい視線が向かうのを避けるためだ。
私は、置かれたお冷に口をつけ、大きく息を吐いた。
「――で、江陽。――一体、どういう事なのかしら?」
ジロリ、と、ヤツを見やる。
「……っと……」
苦りながらも口を開こうとした江陽は、チラリと、聖に視線を向けてから、私を見た。
おそらく、言って良いものなのかという確認だろう。
「大丈夫よ。聖には、むしろ、事情を知っておいてもらった方が、この先やりやすいわ」
「――わかった」
うなづいた江陽は、けれど、先にメニュー表を持つと、私に向けた。
「けど、まあ、先に注文済ませちまおうぜ。話してるうちにイラつくだろうから」
「――それもそうね」
私は、それを受け取ると、聖と二人でのぞき込む。
「あ、季節メニュー変わってるよー!」
「あら、じゃあ、コレ頼む?」
「うん!」
二人でアレコレ悩んで決め、店員を呼ぶと、一通り頼む。
そして、アルコール類とお通しがやって来ると、江陽は、早速口をつけた。
「――まず、何から話せば良い?」
「最初からよ。聖が置いてきぼりになるわ」
「了解」
そう言ってヤツはうなづき、弟が何故、あのような事を言って来たのか、話し始めたのだった。