大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
4.ただの、ヤキモチなんだよ
「――サングループ( ウ チ )は、元々、オレのじいさんと、大叔父さんが始めた、小さい食品工場が始まりだったんだけどよ」

 そう、ジョッキのビールを半分ほど空けた江陽が、口を開いた。

「まあ、じいさんは技術者タイプで――大叔父さんが、営業みたいな役割をしてたんだけどな。ここまでデカくなったのは、大叔父さんがあちこちの会社と提携だの、吸収合併だの繰り返した結果なんだ」

 私と聖は、それぞれ、注文したアルコールを口にしながら、ヤツの話を聞く。

「――で、ウチの一族、みんな、大叔父さんの意思でいろいろ決められてるフシがあって――唯一、反抗したのが、親父だったんだ。それで、オレの家族は、目を付けられたっつーか……未だに、大叔父さんの中では、母親はいないものってなってるしな」
「――……亜澄さんとの結婚、長い間認められなかったって、そういう事だった訳……」
「……何か、別世界の話だねぇー……」
 聖は、ポテトフライを口に入れながら、しみじみ言う。
「そういうの、ドラマとかで良くあるじゃない?絶対に、フィクションだってわかるから楽しいのに――現実にあるってなったら、呑気に観てられないなぁー」
「オレだって、現実味無ぇよ。実際、初めて大叔父さんと顔合わせたのは、大学卒業した後だしな」
「え」
 私は、グラスを持つ手を止めた。
「……そんなに最近の事なの?」
 すると、江陽は気まずそうに、私に視線を向けた。
「――……ああ。……就職が決まった後、呼びつけられてよ。――見合い写真山ほど渡されて、この中から結婚相手を選べ、だと」
「ええぇー⁉それって、まだ、二十二歳とかでしょ⁉これからって時に、お見合いなの⁉」
 驚いて叫ぶ聖に、ヤツは、視線を下げてうなづいた。
「ああ、時代錯誤も甚だしいだろ。けど、あの人には、それが普通で、絶対なんだ。それをオレが断ったモンだから――今度は、翔陽に目を付けた」
「……弟くんは、元々、跡を継ぐつもりだったんでしょう?」
 私は、江陽を見やり、尋ねる。
 確か――以前、コイツとお見合いをセッティングされた時、そんな事を言っていたし――先ほどだって、言っていた。
 けれど、ヤツは首を緩々と振り、言った。
「……それだって、あの人が、翔陽を、親が知らないうちに呼びつけて、徐々に刷り込んでいったみてぇだしな。――どこまで本気なんだか、わからねぇよ」
 そして、眉をしかめてジョッキを空けると、江陽は、大きく息を吐いた。

「――とにかく、大叔父さんは、自分の意に沿わないヤツを放っておかない。――だから、翔陽を寄越したんだろ。……オレ達の結婚をつぶしたいから――」
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