大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
5.キミの仕事は何?
翌朝、完全に二日酔いになった聖を追い立てるように出勤。
「……ホラ、聖、しっかりしなさい。まだ、週中よ」
「ううー……頭イタイー……」
さすがに、私のハイボールはキツかったようで、聖は、半泣きで左のこめかみを押さえた。
「もう……間違った私も悪いけど、アンタも気づきなさいよ」
「だってー……何か、江陽クンの話が重くて……」
「何よ、それは」
「……ホントに、おぼっちゃんだったんだなー、って」
聖は、大きく息を吐くと、真上を向いた。
「――江陽クンの話って、アタシ達には、正直、現実味が無いものだったけどさー……。それを話してる江陽クン、何にも違和感無いみたいだった」
「――え」
「そんな話が、当然のようにされている環境で育ったんだ、って思ったの」
私は、無意識に、自分の胸を押さえた。
聖は、それに気づくでもなく、見えてきた会社の方へ足を進める。
「羽津紀ー?」
「――え、あ、何でもないわ」
前を進む聖を追いかけるように、足を速めながら、胸の奥はざわついている。
――……そう……なんだ。
――……アイツは――正真正銘、”御曹司”。
今さらながら、その肩書に、怯む自分に気がついた。
どうにか、動揺を押さえながら、会社に到着。
いつものように企画課の部屋に入ると、すぐに神屋課長に手招きされた。
私は、昨日のように会議スペースに入ると、目を丸くしてしまう。
「おはよう、名木沢さん」
「――おはようございます、片桐さん」
――先客がいた。
課長は、私を座っていた片桐さんの隣に促すと、自分はその前に座る。
「お二人さん、朝から悪いね」
「――いえ。……何か、ありましたでしょうか」
私が尋ねると、課長は、手を組んで前のめりに私達を見やった。
「――昨日の、コラボ企画の白紙の件の絡みで、社長からの指示。社員全員対象に、新企画コンペ開催、だってさ」
「――え」
私は、目を丸くする。
すると、隣の片桐さんが、いつものように穏やかに――けれど、どこか冷たく尋ねた。
「それは――コラボ企画は、企画課では、持て余す案件になったという事ですか」
「いや、そういう訳じゃないよ。ホラ、社長のいつものヤツ。面白そうだから、やってみたら、だよ」
課長は、身体を起こすと、私達を交互に見やる。
「キミ達の力が足りないとかじゃない。――ただ、目新しさを求めた時、確かに、違う風が欲しい時もあるだろう?」
私は、正論と思いうなづくが、珍しく、片桐さんは視線を動かさない。
「――ウチの班の力不足としか、受け取れませんが」
「か、片桐さん」
まるで、ケンカを売っているような言い方に、思わず、彼の袖を引いてしまう。
なのに、当の課長は、口元を上げ、馬鹿正直に告げた。
「――そう受け取ってもらっても構わないよ。事実、向こうが白紙にすると言った時に、引き留められるだけの案が無かったからね」
「……か、課長!」
――いや、買うな、頼むから!
間に挟まれる身にもなれ!
私がオロオロとし始めるが、二人はお互い、にらみ合って動かない。
「――……否定はしていただけませんか」
「悪いけどね。事実だから」
あっさりとうなづいた課長は、立ち上がると、淡々と告げた。
「そこで、二人には、そのコンペの一次審査をしてもらいたいんだ」
「え」
「二次は部長たち、最終は社長――の予定だけど、まあ、あの人の事だから、一次審査から乗り込みかねないね」
私は、心当たりがあり過ぎて、思わず空を見つめた。
「あと、名木沢クンには、企画書のフォームを作ってもらいたいんだよね」
「――え」
「キミが、一番最初に目を通すんだから、見にくいのも嫌でしょ」
「――それは……確かに、そうですが……」
今の仕事に、更に追い打ちをかける気か。
けれど、既に決定事項。
課長の視線は、反論を許さない。
「――……締め切りは、いつでしょうか……」
私は、あきらめて、ため息交じりにうなづいた。
「……ホラ、聖、しっかりしなさい。まだ、週中よ」
「ううー……頭イタイー……」
さすがに、私のハイボールはキツかったようで、聖は、半泣きで左のこめかみを押さえた。
「もう……間違った私も悪いけど、アンタも気づきなさいよ」
「だってー……何か、江陽クンの話が重くて……」
「何よ、それは」
「……ホントに、おぼっちゃんだったんだなー、って」
聖は、大きく息を吐くと、真上を向いた。
「――江陽クンの話って、アタシ達には、正直、現実味が無いものだったけどさー……。それを話してる江陽クン、何にも違和感無いみたいだった」
「――え」
「そんな話が、当然のようにされている環境で育ったんだ、って思ったの」
私は、無意識に、自分の胸を押さえた。
聖は、それに気づくでもなく、見えてきた会社の方へ足を進める。
「羽津紀ー?」
「――え、あ、何でもないわ」
前を進む聖を追いかけるように、足を速めながら、胸の奥はざわついている。
――……そう……なんだ。
――……アイツは――正真正銘、”御曹司”。
今さらながら、その肩書に、怯む自分に気がついた。
どうにか、動揺を押さえながら、会社に到着。
いつものように企画課の部屋に入ると、すぐに神屋課長に手招きされた。
私は、昨日のように会議スペースに入ると、目を丸くしてしまう。
「おはよう、名木沢さん」
「――おはようございます、片桐さん」
――先客がいた。
課長は、私を座っていた片桐さんの隣に促すと、自分はその前に座る。
「お二人さん、朝から悪いね」
「――いえ。……何か、ありましたでしょうか」
私が尋ねると、課長は、手を組んで前のめりに私達を見やった。
「――昨日の、コラボ企画の白紙の件の絡みで、社長からの指示。社員全員対象に、新企画コンペ開催、だってさ」
「――え」
私は、目を丸くする。
すると、隣の片桐さんが、いつものように穏やかに――けれど、どこか冷たく尋ねた。
「それは――コラボ企画は、企画課では、持て余す案件になったという事ですか」
「いや、そういう訳じゃないよ。ホラ、社長のいつものヤツ。面白そうだから、やってみたら、だよ」
課長は、身体を起こすと、私達を交互に見やる。
「キミ達の力が足りないとかじゃない。――ただ、目新しさを求めた時、確かに、違う風が欲しい時もあるだろう?」
私は、正論と思いうなづくが、珍しく、片桐さんは視線を動かさない。
「――ウチの班の力不足としか、受け取れませんが」
「か、片桐さん」
まるで、ケンカを売っているような言い方に、思わず、彼の袖を引いてしまう。
なのに、当の課長は、口元を上げ、馬鹿正直に告げた。
「――そう受け取ってもらっても構わないよ。事実、向こうが白紙にすると言った時に、引き留められるだけの案が無かったからね」
「……か、課長!」
――いや、買うな、頼むから!
間に挟まれる身にもなれ!
私がオロオロとし始めるが、二人はお互い、にらみ合って動かない。
「――……否定はしていただけませんか」
「悪いけどね。事実だから」
あっさりとうなづいた課長は、立ち上がると、淡々と告げた。
「そこで、二人には、そのコンペの一次審査をしてもらいたいんだ」
「え」
「二次は部長たち、最終は社長――の予定だけど、まあ、あの人の事だから、一次審査から乗り込みかねないね」
私は、心当たりがあり過ぎて、思わず空を見つめた。
「あと、名木沢クンには、企画書のフォームを作ってもらいたいんだよね」
「――え」
「キミが、一番最初に目を通すんだから、見にくいのも嫌でしょ」
「――それは……確かに、そうですが……」
今の仕事に、更に追い打ちをかける気か。
けれど、既に決定事項。
課長の視線は、反論を許さない。
「――……締め切りは、いつでしょうか……」
私は、あきらめて、ため息交じりにうなづいた。