大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
話を終え、スペースから出ると、片桐さんに軽く肩を叩かれる。
「キミに、投げっぱなしにはしないよ。――僕も、たたき台作っておくから」
「ありがとうございます」
私は、うなづき、頭を下げる。
――ああ……また、面倒な事に……。
社長の鶴の一声は、絶対だ。
だから、もう、あきらめてやるしかない。
あれこれ文句を言っている時間も、もったいないのだから。
すると、目の前に書類が差し出され、私は顔を上げた。
「――お願いします、名木沢さん」
「承知しました。三ノ宮さん」
江陽は、クリアファイルに入れたそれを手渡すが、そのまま動こうとしない。
私は、眉を寄せて顔を上げる。
「――まだ、何か」
「……いや……何か、トラブルでもあったのか?」
「何でよ」
思わず、いつもの口調になってしまう。
コレは私の仕事で、あのスペースで話す事は、暗黙の了解で、公表するまでは秘密事項である。
「何か、深刻なカンジだったから……」
「仕事の話よ。楽しいものばかりじゃないわよ」
「――なら良いんだけどよ」
江陽は、少しだけ腑に落ちないような表情だったが、それでも、うなづいた。
「じゃあ、それ、よろしく」
そして、そう言って、自分の席に戻って行った。
聖がお昼休みに迎えに来たが、私は、投げられた仕事を消化するのに精一杯。
悪いが、今日は、パスさせてもらう事にした。
お弁当をデスクで突きながら、書類とにらめっこ。
溜まっていくそれに、げんなりしつつも、目を通すのが自分の仕事、と、言い聞かせる。
期日が迫っているものを優先し、空けた時間でコンペのフォームを作らなければならない。
「――あまり、根詰めないようにね」
「え」
視界に入ってきた紙に驚き、顔を上げると、片桐さんが、困ったように微笑んでいた。
「片桐さん」
「ハイ。僕の方で、たたき台作ってみたからさ」
「――え」
私は、彼が差し出した用紙を受け取り、視線を向ける。
そこには、コンペ用企画書、と、銘打たれていた。
「――え、あ、あの……」
「僕だって、キミと一緒に審査しなきゃだからね。必ず見たい項目に、色つけておいたから、できれば外さないで欲しいんだけど」
彼は、私の隣にイスを持ってきて、そう告げる。
「――……し、承知……しました……」
「まあ、あまり深く考えないようにね。――まず、キミの仕事は何?」
「――……っ……」
私は、視線を落としたまま、紙を持つ手に無意識に力を込めた。
――……私の、仕事……は――。
「課長が、キミを推薦してきたのは、あくまで、素人目が必要だったからだよね。なら、単純に考えれば、すぐに終わると思うけど?」
片桐さんは、そう言って、私が持っていた用紙を手から引き抜き、机の上に置いた。
「お昼休みは、ちゃんとご飯食べなきゃ――ね?」
「ハ、ハイ……」
私は、うなづくが、すぐに顔を上げた。
「片桐さんは、もう終わったんですか」
その問いかけに、彼は、苦笑いで首を振る。
「これから」
「――じゃあ、人のコト、言えませんよね」
「でも、キミみたいに、追い詰められたような顔してません」
肩をすくめて言われ、私は、目を見開く。
――そんなカオ、してたの……?
思わず両手を頬に当てる。
「何だか、ここ数日、ピリピリしてるよ、名木沢さん」
片桐さんは、そう言って、私の肩をポンと叩く。
「結婚準備が大変なのかもしれないけれどさ、仕事は仕事だから」
そう告げると、立ち上がり、イスを戻す。
そして、苦笑いを置いて、部屋から出て行った。
「キミに、投げっぱなしにはしないよ。――僕も、たたき台作っておくから」
「ありがとうございます」
私は、うなづき、頭を下げる。
――ああ……また、面倒な事に……。
社長の鶴の一声は、絶対だ。
だから、もう、あきらめてやるしかない。
あれこれ文句を言っている時間も、もったいないのだから。
すると、目の前に書類が差し出され、私は顔を上げた。
「――お願いします、名木沢さん」
「承知しました。三ノ宮さん」
江陽は、クリアファイルに入れたそれを手渡すが、そのまま動こうとしない。
私は、眉を寄せて顔を上げる。
「――まだ、何か」
「……いや……何か、トラブルでもあったのか?」
「何でよ」
思わず、いつもの口調になってしまう。
コレは私の仕事で、あのスペースで話す事は、暗黙の了解で、公表するまでは秘密事項である。
「何か、深刻なカンジだったから……」
「仕事の話よ。楽しいものばかりじゃないわよ」
「――なら良いんだけどよ」
江陽は、少しだけ腑に落ちないような表情だったが、それでも、うなづいた。
「じゃあ、それ、よろしく」
そして、そう言って、自分の席に戻って行った。
聖がお昼休みに迎えに来たが、私は、投げられた仕事を消化するのに精一杯。
悪いが、今日は、パスさせてもらう事にした。
お弁当をデスクで突きながら、書類とにらめっこ。
溜まっていくそれに、げんなりしつつも、目を通すのが自分の仕事、と、言い聞かせる。
期日が迫っているものを優先し、空けた時間でコンペのフォームを作らなければならない。
「――あまり、根詰めないようにね」
「え」
視界に入ってきた紙に驚き、顔を上げると、片桐さんが、困ったように微笑んでいた。
「片桐さん」
「ハイ。僕の方で、たたき台作ってみたからさ」
「――え」
私は、彼が差し出した用紙を受け取り、視線を向ける。
そこには、コンペ用企画書、と、銘打たれていた。
「――え、あ、あの……」
「僕だって、キミと一緒に審査しなきゃだからね。必ず見たい項目に、色つけておいたから、できれば外さないで欲しいんだけど」
彼は、私の隣にイスを持ってきて、そう告げる。
「――……し、承知……しました……」
「まあ、あまり深く考えないようにね。――まず、キミの仕事は何?」
「――……っ……」
私は、視線を落としたまま、紙を持つ手に無意識に力を込めた。
――……私の、仕事……は――。
「課長が、キミを推薦してきたのは、あくまで、素人目が必要だったからだよね。なら、単純に考えれば、すぐに終わると思うけど?」
片桐さんは、そう言って、私が持っていた用紙を手から引き抜き、机の上に置いた。
「お昼休みは、ちゃんとご飯食べなきゃ――ね?」
「ハ、ハイ……」
私は、うなづくが、すぐに顔を上げた。
「片桐さんは、もう終わったんですか」
その問いかけに、彼は、苦笑いで首を振る。
「これから」
「――じゃあ、人のコト、言えませんよね」
「でも、キミみたいに、追い詰められたような顔してません」
肩をすくめて言われ、私は、目を見開く。
――そんなカオ、してたの……?
思わず両手を頬に当てる。
「何だか、ここ数日、ピリピリしてるよ、名木沢さん」
片桐さんは、そう言って、私の肩をポンと叩く。
「結婚準備が大変なのかもしれないけれどさ、仕事は仕事だから」
そう告げると、立ち上がり、イスを戻す。
そして、苦笑いを置いて、部屋から出て行った。