大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
1.諸事情で、未定です
 週も明け、いつもの月曜日。
 私は、相変わらず自分の美の追求に時間を費やしている聖をせっつき、いつものように出勤。
 そして、いつものように、企画課へ。

 ――昇龍(しょうりゅう)食品株式会社、企画課課長補佐、名木沢(なぎさわ)羽津紀(うづき)、二十七歳――

 それが、私だ。


「おはようさん、名木沢クン。さっそくだけど、それ、よろしく」

 挨拶もそこそこに、神屋(かみや)課長に机の上の書類の山を指され、苦笑いでうなづく。

「――……承知しました……」

 企画課内で上がって来た案を、課長に上げる前に目を通し、いろいろな疑問点を洗い出すのが私の役目。
 その役に就いたのは――入社二年目で、その当時から私は、他の社員から少々距離を置かれるような存在ではあったが。

「――で、名木沢クン、三ノ宮クンとの式の日取りは決まったのかな?」

「……プライベートです、神屋課長」

 ――何かと目立つ江陽のせいで、私達の関係は、交際直後から、周知の事実となってしまった。
 それにかこつけて、いろいろと言われるが――今さらなので、私が気にする事は無かったけれど。

「でもさ、オレも呼んでくれるんでしょ?準備しなきゃじゃないの」

 課長に、そう続けられ、私はため息交じりに答えた。

「――……諸事情で、未定です」

 すると、課長は、不満を見せるでもなく、うなづいた。
「それもそうか。サングループ(・・・・・・)の息子さんだもんな、いろいろ大変だろうね」
「――いい加減、仕事させていただけますでしょうか」
 私は、課長の独り言をスルーし、頭を下げると自分の席に着く。
 その間も、チラチラと受ける視線が痛い。
 それを意識の外にどうにか追いやり、私は、手元の書類に目を落とした。


 三ノ宮江陽は、私の幼なじみで――天敵だった。
 ヤツのせいで、保育園の時、私は右腕の骨を折り、周囲からはごちゃごちゃ言われ続け、ついには男嫌いに。
 再会した当初から、ケンカの絶えない間柄だったけれど――まあ、紆余曲折あって、今では恋人で――ついには婚約者だ。

 そして、ヤツは、実は、サングループという日本でも一、二を争う食品会社の社長の長男。
 今のところ、跡を継ぐ予定は無いとの事だけれど、しがらみは、やはり多かった。

 まず、父親の三ノ宮社長がらみの親戚筋が、うなづかなかった。

 いろいろあって、社長と奥様の亜澄(あずみ)さんとの結婚が認められたのが、江陽が生まれて十二年も経ってから。
 しかも、その間、一家がそろって暮らすことも許されず、社長は通い婚のような形を取らざるを得なかったらしい。
 そして、認められた後も、同居する事はできず――そのせいなのか、未だに江陽と社長との溝は深いようだ。

 そんな二人の息子が、どこの馬の骨ともわからない女と結婚するというのだ。
 周囲は、まあ、大騒ぎにも程があるようで、今現在、保留と同じ扱いなのだ。


「おはようございます」


 すると、その当の本人が到着。
 一班の自分の席に座る間も、課内の視線は私と江陽に集中してしまっている。
 けれど、ヤツはそれを気にするでもなく、班長とさっそく話し合いを始めていた。

 ――アンタ、ホント、良くも悪くも鈍感よね。

 私は、それを見やると、大きくため息をつき、再び手元の書類を読み込み始めた。
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