大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
結局、片桐さんがくれた、たたき台を元に、自分なりのフォームを作り終えたのは、定時を一時間も過ぎてからだった。
作っている最中にも、仕事は投げ込まれていくので、まともに集中できず――周囲が帰り支度を始める頃にようやく手をつけ始め、どうにか形を作り終えたのだ。
「――もう、今日は、これでおしまい」
ため息をつきながら、プリントアウトした紙をファイルに入れ、引き出しにしまう。
そして、固まった身体を伸ばしながら立ち上がると、部屋のドアが開いた。
「――あれ?名木沢さん、まだ、いたの?」
「片桐さん」
すると、バッグを持った片桐さんが、自分の席にそれを置く。
「お出かけでしたか」
「ああ、工場にちょっと、ね」
私の疑問に、うなづいた彼は、こちらに来て手元をのぞき込んだ。
「もしかして、フォーム作ってた?」
「ハイ」
あっさりとうなづけば、肩をすくめられる。
「――まあ、キミに、無理をするな、と、言ってもね」
わかったように言われ、少しだけ恥ずかしくなってしまった。
「……仕方ないじゃないですか。他にも仕事がやってくるんですから」
「まあ、それは否定しないし。そもそも、キミが通してくれなきゃ、企画が止まっちゃうからね」
片桐さんはデスクに戻ると、バッグから大きなファイルを取り出し、引き出しに片付ける。
そして、私を見やり、言った。
「ああ、そうだ。まだ、決定じゃないんだけどさ、四班全員で、ちょっと大きな企画始めるから、一応、含んでおいて」
「え」
――班、全員で?
私が企画課に来てから、そんな話は一度として無かったはず。
すると、目を丸くした私に、彼は、口元を上げる。
「課長の言う事は、うなづくしかないけどね。――でも、それで引き下がる訳にも、いかないからさ」
そう言って、穏やかに微笑む。
私は、その言葉に、同じように微笑んで返した。
――そうだ。この人は、こういう人だった。
ヒョロリとして、温厚な見た目。
外見だけなら、穏やかで――けれど、人の先の先を読んで、策を講じる人。
穏やかな口調で、穏やかではない事をちょくちょく言って、戸惑わせる事も多い。
――けれど、人を思いやれる優しさを持っている人。
そんな一面を知っているのは――私の、”元カレ”だったから。
「そういえば、名木沢さん。そろそろ、帰ってあげたら?」
「え?」
思考が逸れた私に、彼は、苦笑いで言った。
――が。
何だか、言い方に違和感がある。
そう思ったら、肩をすくめられた。
「僕が帰って来る時に、ロビーの方で、三ノ宮くん、待っていたよ?」
私は、それに苦笑いで応え、頭を下げると、そそくさと帰り支度を始めたのだった。
作っている最中にも、仕事は投げ込まれていくので、まともに集中できず――周囲が帰り支度を始める頃にようやく手をつけ始め、どうにか形を作り終えたのだ。
「――もう、今日は、これでおしまい」
ため息をつきながら、プリントアウトした紙をファイルに入れ、引き出しにしまう。
そして、固まった身体を伸ばしながら立ち上がると、部屋のドアが開いた。
「――あれ?名木沢さん、まだ、いたの?」
「片桐さん」
すると、バッグを持った片桐さんが、自分の席にそれを置く。
「お出かけでしたか」
「ああ、工場にちょっと、ね」
私の疑問に、うなづいた彼は、こちらに来て手元をのぞき込んだ。
「もしかして、フォーム作ってた?」
「ハイ」
あっさりとうなづけば、肩をすくめられる。
「――まあ、キミに、無理をするな、と、言ってもね」
わかったように言われ、少しだけ恥ずかしくなってしまった。
「……仕方ないじゃないですか。他にも仕事がやってくるんですから」
「まあ、それは否定しないし。そもそも、キミが通してくれなきゃ、企画が止まっちゃうからね」
片桐さんはデスクに戻ると、バッグから大きなファイルを取り出し、引き出しに片付ける。
そして、私を見やり、言った。
「ああ、そうだ。まだ、決定じゃないんだけどさ、四班全員で、ちょっと大きな企画始めるから、一応、含んでおいて」
「え」
――班、全員で?
私が企画課に来てから、そんな話は一度として無かったはず。
すると、目を丸くした私に、彼は、口元を上げる。
「課長の言う事は、うなづくしかないけどね。――でも、それで引き下がる訳にも、いかないからさ」
そう言って、穏やかに微笑む。
私は、その言葉に、同じように微笑んで返した。
――そうだ。この人は、こういう人だった。
ヒョロリとして、温厚な見た目。
外見だけなら、穏やかで――けれど、人の先の先を読んで、策を講じる人。
穏やかな口調で、穏やかではない事をちょくちょく言って、戸惑わせる事も多い。
――けれど、人を思いやれる優しさを持っている人。
そんな一面を知っているのは――私の、”元カレ”だったから。
「そういえば、名木沢さん。そろそろ、帰ってあげたら?」
「え?」
思考が逸れた私に、彼は、苦笑いで言った。
――が。
何だか、言い方に違和感がある。
そう思ったら、肩をすくめられた。
「僕が帰って来る時に、ロビーの方で、三ノ宮くん、待っていたよ?」
私は、それに苦笑いで応え、頭を下げると、そそくさと帰り支度を始めたのだった。