大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
「羽津紀!」
私が、一階に降りると、まるで、主人を見つけた仔犬のように、江陽が駆け寄って来た。
「……アンタ、聖を送ったら、先に帰ってって言ったじゃない」
「あのなぁ……そう言われて、ハイ、そうですか、なんて、うなづけるか」
あきれたように言われ、少々ムッとしてしまう。
定時を過ぎたあたりで残業確定だったので、企画の部屋まで迎えに来た聖を送るように、デスクにいた江陽に言ったのだ。
そのまま、帰ってもらって良かったのに。
ただでさえ、家が会社から遠くなったというのだから。
「お前の方が遅いんだから、心配なのは当然だろ」
「でも」
「いいから。――婚約者の心配して、何が悪い」
開き直ったヤツに、私は眉を寄せた。
「……アンタ、婚約者って連発するの、やめてくれない?」
――まだ、私自身、消化しきれていないというのに。
だが、江陽は、ふてくされたように返す。
「何でだよ、事実だろ。――少しは、噛みしめさせろ」
「……何よ、それ」
「だって、”彼女”よりも、特別感あるだろうが」
私は、あきれてヤツを見上げる。
「何言ってんの。最終的には、”奥さん”でしょうが」
「――……っ……!」
その言葉に、ヤツは、今気がついたかのように、硬直する。
「……ちょっと、江陽?」
私は、足を進めるが、ヤツの気配がしない事に気づき、いぶかし気に振り返る。
「……江陽?」
「……悪い……ちょっと、興奮した」
ヤツは、顔を片手で隠しながら、私を見やると、そう言った。
「……アンタ、本当にバカ?」
それに、そう答えたのは――間違いではないはずだ。
会社借り上げのマンションに到着すると、江陽は、当然のように、私の部屋に入って来た。
「何よ、どうかしたの?」
「――……いや……羽津紀、また、片桐班長と、仕事するんだよな」
「……仕事、ね」
相変わらずの独占欲に、苦笑いで返す。
そして、自分から、そっとヤツに抱き着いた。
「う……」
「バカね。――いい加減、”元カレ”という肩書に慣れなさいな」
「慣れる訳ねぇだろ。……片桐班長が、まだ、お前を好きかもしれねぇのに」
「――……そんな訳、無いでしょう。……もし、万が一、そうだとしても、私が応えると思ってるの?」
「それは――……」
口ごもる江陽は、そのまま、私を抱き締める腕に力を込めた。
「……だって――羽津紀、アイツと普通に話してるじゃねぇか」
「当然じゃない。仕事しなきゃなんだから」
そう返せば、ヤツは、ゆっくりと私を離し、キスをしてくる。
「――江陽?」
そして、軽く数回交わすと、一瞬だけ、視線を逸らし、そして、続けた。
「……なあ、羽津紀……。……結婚したら――……仕事、辞めねぇ……?」
私が、一階に降りると、まるで、主人を見つけた仔犬のように、江陽が駆け寄って来た。
「……アンタ、聖を送ったら、先に帰ってって言ったじゃない」
「あのなぁ……そう言われて、ハイ、そうですか、なんて、うなづけるか」
あきれたように言われ、少々ムッとしてしまう。
定時を過ぎたあたりで残業確定だったので、企画の部屋まで迎えに来た聖を送るように、デスクにいた江陽に言ったのだ。
そのまま、帰ってもらって良かったのに。
ただでさえ、家が会社から遠くなったというのだから。
「お前の方が遅いんだから、心配なのは当然だろ」
「でも」
「いいから。――婚約者の心配して、何が悪い」
開き直ったヤツに、私は眉を寄せた。
「……アンタ、婚約者って連発するの、やめてくれない?」
――まだ、私自身、消化しきれていないというのに。
だが、江陽は、ふてくされたように返す。
「何でだよ、事実だろ。――少しは、噛みしめさせろ」
「……何よ、それ」
「だって、”彼女”よりも、特別感あるだろうが」
私は、あきれてヤツを見上げる。
「何言ってんの。最終的には、”奥さん”でしょうが」
「――……っ……!」
その言葉に、ヤツは、今気がついたかのように、硬直する。
「……ちょっと、江陽?」
私は、足を進めるが、ヤツの気配がしない事に気づき、いぶかし気に振り返る。
「……江陽?」
「……悪い……ちょっと、興奮した」
ヤツは、顔を片手で隠しながら、私を見やると、そう言った。
「……アンタ、本当にバカ?」
それに、そう答えたのは――間違いではないはずだ。
会社借り上げのマンションに到着すると、江陽は、当然のように、私の部屋に入って来た。
「何よ、どうかしたの?」
「――……いや……羽津紀、また、片桐班長と、仕事するんだよな」
「……仕事、ね」
相変わらずの独占欲に、苦笑いで返す。
そして、自分から、そっとヤツに抱き着いた。
「う……」
「バカね。――いい加減、”元カレ”という肩書に慣れなさいな」
「慣れる訳ねぇだろ。……片桐班長が、まだ、お前を好きかもしれねぇのに」
「――……そんな訳、無いでしょう。……もし、万が一、そうだとしても、私が応えると思ってるの?」
「それは――……」
口ごもる江陽は、そのまま、私を抱き締める腕に力を込めた。
「……だって――羽津紀、アイツと普通に話してるじゃねぇか」
「当然じゃない。仕事しなきゃなんだから」
そう返せば、ヤツは、ゆっくりと私を離し、キスをしてくる。
「――江陽?」
そして、軽く数回交わすと、一瞬だけ、視線を逸らし、そして、続けた。
「……なあ、羽津紀……。……結婚したら――……仕事、辞めねぇ……?」