大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
6.そろそろ、機嫌直してあげたら?
 ――どうやら、私が付き合っていたのは、何世代も昔の化石だったようだ。

 腹を立てたまま、冷凍していたおかずを温め、かきこむように口にする。
 味なんて、もう、どうだっていい。
 とにかく、ルーティンを崩したくない一心で食事を終え、後片付け、入浴、スキンケア――まで終了させ、ベッドに飛び込んだ。

 あの後、真っ白になった私は、緩々と江陽から離れると、そのままヤツをUターンさせて部屋から追い出し、何事も無かったかのように、夕飯の支度を始めたのだ。

 ――そうでもしなければ、怒りで叫び出しそうだったから。

 私は、布団を頭まで被ると、キツく目を閉じる。

 あれじゃあ、弟くんの事を言えないではないか。
 結婚して、仕事を辞めて――どうしろというの。
 私には、専業主婦は無理だ。
 きっと、一瞬で離婚になってしまうだろう。
 簡単に予想してしまい、胸が痛む。

 ――江陽の希望には、できるだけ添えたい。

 私だって――アイツが好きなのだから。

 けれど、どちらかが我慢しなければいけない関係のままで、一生を共にするなど、到底無理な話だろう。
 早晩、ひずみが出るのは、目に見えている。

 それに、あれでも、アイツは、巨大企業の社長の息子。
 外聞を気にするのなら、尚の事、もっと、慎重にならなければいけないのに。


「――こうちゃんのバカ……」


 グルグルと考え続け――結局、それに行きついて、私は無理矢理目を閉じた。


 翌朝、いつものように聖の部屋のインターフォンを押すと、昔よりも少しだけ早く、彼女が顔を出す。
 そして、せっかくキレイに整えた顔をしかめて言った。

「――おはよー、羽津紀。……何か、日に日に不機嫌になってないー?」

「……おはよう。……そんな事、無いわよ」

 聖は、苦笑いで返し、部屋のドアを閉めて鍵をかけた。
「そんな事、あるってば。――江陽クンがらみ?」
 私は、彼女を見上げると、眉を下げた。
「……私、そんなに顔に出てるかしら……?」
 片桐さんにも、そんな事を言われたばかりだ。
 昔は、そこまで喜怒哀楽が、ハッキリ顔に表れる自覚は無かったのに。
「んー……たぶん、江陽クンと再会()ってからじゃない?きっと、昔みたいに、なったんじゃないかな」
「……まあ、ヤツ相手にしていると、いろいろと黒歴史がよみがえってくるからね……」
「黒歴史って……相変わらず手厳しいねー」
「だって、正直、こうやってヤツとの結婚話が出るなんて、想像つかなかったもの」
 私は、そう言ってエレベーターに乗り込むと、聖を振り返った。
 すると、クスクスと笑われる。
「……何よ」
「でもさ、結局、羽津紀が素を出せるのって、江陽クンが相手だからじゃない?」
「……まあ……そうとも言えるかもね」
「また、意地っ張り」
「うるさいわね」
 言い合いながらも、苦笑いが浮かんでしまう。

 ――確かに、ヤツ相手だと、何を気にする事もないような気がしてしまうのだ。

 昔、あれだけケンカして、無視して――それでも、私が好きだというのだから……。
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