大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 翌朝――朝かどうか、一瞬悩むのは、窓が無いからだが――ぼうっとしながら起き上がる江陽の気配を感じ、私も目を開けた。

「……はよ……うーちゃん……」

「おはよ、こうちゃん」

 どうも、寝起きやプライベートになると、お互い昔の呼び方に戻ってしまう。
 けれど、もう、それは二人だけの時という決め事――なのだけれど、最近は、そんな風に呼ばれると、身体が無駄に反応してしまい弱ってしまうのだ。
 すると、江陽は、一旦起き上がり、再び私にのしかかった。
「ちょっと、こうちゃん!」
「あー……会社、行きたくねぇ……」
「だから、平日はやめればよかったのに」
「だって、うーちゃんのせいだろ」
「何でよ!」
「いつまで経っても自覚が無いから」
「――……だ、だから……そ、それは……」
 口ごもると同時に、首筋をキツく吸われる。
「――んっ……!」
「よし、ついた」
「バッ……!アンタ、何してっ……!」
 私は、江陽を突き飛ばすと、布団で身体を包み、鏡の前へ。

「ああ―――っっ‼この、バカ江陽っ!!!!」

 ……そこには、鮮やかすぎるほどの、赤。


「今日は、接近禁止‼」


「何でだよ!」


 慌てる江陽を置き去りに服を着ると、私は、財布を取り出し精算する。
「あ、バカ!何、払ってんだよ」
「アンタだけに支払わせるつもりなんて無いわよ」
「そういうのは、男の役目だろ」
「……いつの時代の人間よ」
 私は、眉を寄せながらバッグに財布をしまうと、江陽を振り返る。

「――私がこういう女だって、知ってるでしょ」

「……っ……」

 言葉に詰まるヤツに、口元を上げて返す。

「……ったく、敵わねぇ……」

 ため息交じりで言いながら、江陽は服を着ると、ドアの前で待っている私の手を取ると、指を絡める。

「――まあ、二十七年好きだったんだ。今さら、そんなので嫌いになんて、ならねぇけどな」

 そして、そう、うれしそうに言ったのだった。
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