大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
2.少しは、成長できましたか
今日は平日、と、呪文のように繰り返し出勤。
既に、私と江陽が婚約している事は周知の事実となり、チラチラと視線は受けるけれど、あからさまに眉をひそめられる事は少なくなった。
「おはよう、名木沢さん。珍しい時間だね」
社屋に入ると、後ろからそう声をかけられ、私達は揃って振り返る。
「――おはようございます、片桐さん」
「……おはようございます」
穏やかな笑みを見せてうなづくのは、企画課第四班班長――ウチの”エース”、片桐敬さんだ。
彼は、ふてくされている江陽を見上げ、クスクスと笑った。
「また、何か、ケンカしてたのかな?」
「――また、とは、何ですか……片桐班長」
「いや?だって、キミ達、週の四日くらいは、痴話喧嘩してるじゃない」
「……か、片桐さん」
言うだけ言って、彼は、お先に、と、私達を追い越し、エレベーターに乗り込んだ。
まあまあ満員なので、私は、江陽の袖を引き、一回見送る。
「……羽津紀」
「もう、いい加減にしなさいな。――片桐さんとは、ちゃんと、けじめついてるんだから」
「……わかってる」
少しだけ表情を暗くしながらうなづく江陽に、眉を下げてしまう。
――片桐さんとは、ほんの少しの期間だが――お付き合いをしていた事がある。
それは、まだ、頑なに男嫌いを公言してやまない時で――そんな私に、公開告白をしてきた彼と、いろいろあって付き合い――そして、別れた。
一応、元カレ、というものだ。
けれど、恋愛感情抜きでも、彼は尊敬できるし、ともに商品を作っていく仲間――”戦友”なのだ。
私の気持ちが揺らいでいる時、不意に落ちてきたその言葉は、今でも、彼に対する、私だけの肩書。
それは、江陽といえど、教える訳にはいかないと思っている。
――それが、片桐さんへの償いだと思うから。
散々振り回し、逃げ回った挙句、プロポーズまで断ったのだ。
申し訳無さで押しつぶされそうになる私に、彼は、その肩書を受け入れてくれ――罪悪感を持たないように、と、教えてくれたのだ。
それに報いるためにも、私は、江陽と幸せにならないといけないのだ。
私は、閉じたままのエレベーターのドアを見つめ、心の中で問いかけた。
――……片桐さん。
――……私、二年前から、少しは、成長できましたか……?
既に、私と江陽が婚約している事は周知の事実となり、チラチラと視線は受けるけれど、あからさまに眉をひそめられる事は少なくなった。
「おはよう、名木沢さん。珍しい時間だね」
社屋に入ると、後ろからそう声をかけられ、私達は揃って振り返る。
「――おはようございます、片桐さん」
「……おはようございます」
穏やかな笑みを見せてうなづくのは、企画課第四班班長――ウチの”エース”、片桐敬さんだ。
彼は、ふてくされている江陽を見上げ、クスクスと笑った。
「また、何か、ケンカしてたのかな?」
「――また、とは、何ですか……片桐班長」
「いや?だって、キミ達、週の四日くらいは、痴話喧嘩してるじゃない」
「……か、片桐さん」
言うだけ言って、彼は、お先に、と、私達を追い越し、エレベーターに乗り込んだ。
まあまあ満員なので、私は、江陽の袖を引き、一回見送る。
「……羽津紀」
「もう、いい加減にしなさいな。――片桐さんとは、ちゃんと、けじめついてるんだから」
「……わかってる」
少しだけ表情を暗くしながらうなづく江陽に、眉を下げてしまう。
――片桐さんとは、ほんの少しの期間だが――お付き合いをしていた事がある。
それは、まだ、頑なに男嫌いを公言してやまない時で――そんな私に、公開告白をしてきた彼と、いろいろあって付き合い――そして、別れた。
一応、元カレ、というものだ。
けれど、恋愛感情抜きでも、彼は尊敬できるし、ともに商品を作っていく仲間――”戦友”なのだ。
私の気持ちが揺らいでいる時、不意に落ちてきたその言葉は、今でも、彼に対する、私だけの肩書。
それは、江陽といえど、教える訳にはいかないと思っている。
――それが、片桐さんへの償いだと思うから。
散々振り回し、逃げ回った挙句、プロポーズまで断ったのだ。
申し訳無さで押しつぶされそうになる私に、彼は、その肩書を受け入れてくれ――罪悪感を持たないように、と、教えてくれたのだ。
それに報いるためにも、私は、江陽と幸せにならないといけないのだ。
私は、閉じたままのエレベーターのドアを見つめ、心の中で問いかけた。
――……片桐さん。
――……私、二年前から、少しは、成長できましたか……?