大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
企画課の部屋に挨拶をしながら、江陽と二人で入る。
そして、お互い席に着けば、もう、先ほどまでの、少しだけ浮かれた気分は一気に消え去った。
私は、机の上に山になっていた企画書を手に取ると、班ごとに分け、さっと目を通していく。
新規と再提出と分け、期限の有無を確認。
すると、先に出勤していたのか、神屋課長が部屋に入るなり、私を呼んだ。
「おはよう、名木沢クン。――ちょっと、良いかい」
そう言って、部屋の片隅にパーティションで区切られているエリアを指さされる。
そこは、みんなの視界から適度に外れてくれていて、大事な話をするにはちょうど良い場所だ。
私はうなづくと、すぐに腰を上げて向かった。
――何かあったのかしら。
おそらく、どう転んでも、面白いものではないだろう。
そんな事を思いながら入ると、課長は、私に視線を向け、そのまま声を抑えて言った。
「今回の、サングループとのコラボ企画、横槍が入って、白紙になるんだってさ。――心当たり、ある?」
「――え」
その言葉に、一瞬、江陽の親戚の存在が頭をかすめた。
けれど――それは、それだろう。
私は、ゆっくりと首を横に振った。
課長は、肩を落とし、申し訳程度に置いてあるイスに腰を下ろした。
「――課長、今回のコラボ企画って、カップ麺の方でしたよね……」
視線だけで座るように言われ、従うと、私は、恐る恐る課長に尋ねる。
「そうなんだけどね――今、社長から聞いたんだけど……何か、他のトコとの話が進んでいるって言われてさ」
「――他、ですか」
「――”ワールドスパイス”だってさ」
「え」
私は、驚いて顔を上げる。
――そこは、昇龍食品と、シェアを二分している、調味料専門の会社。
いわゆる、ライバル会社なのだ。
課長は、弱り切った表情を見せると、そのまま頬杖をついた。
「ワールドスパイスの方で、世界の本格麺って企画が提案されたらしくてね。――サングループの企画さんから、今回はそっちで行きたいって言われてるんだと」
「……で、でも、あちらとは、方向性が若干違うのでは……」
「まあね。ただ、ウチとのコラボも、もう、この二年で四回。――言っちゃ悪いけど、マンネリ感も否めないし、正直、最初ほど売り上げも伸びていない。そういう理由もあってだろうね」
「――……で、でも、定番化していると考えるべきでは……」
私が反論すると、課長は、チラリと見やり、ため息をついた。
「定番化したら、コラボする意味が無くなるでしょ。――あくまで、目新しさや、話題性が目的なんだから」
そう返され、次が続かなくなってしまう。
――確かに、コラボ企画の位置づけは、そんな意味合いもあるだろう。
「……では、今回は、見送る、と――」
課長は、うなづくけれど、気合いを入れるように、勢いよく立ち上がった。
「でもまあ、今回だけ、ってコトでしょ。――このまま、フェードアウトはさせないからさ」
後半部分の声音の迫力に、一瞬、気おされてしまうが、私は、うなづいて返した。
「――承知しました。……コラボ企画に関しては、できるだけのものを、揃えておきましょう。――サングループの方から、頼みに来るようなものを」
――このまま、泣き寝入りなど、してなるものか。
課長は、私を見やり、ニヤリ、と、口元を上げた。
「さすが。わかってくれてるね」
私達はうなづき合うと、それぞれの席に戻ったのだった。
そして、お互い席に着けば、もう、先ほどまでの、少しだけ浮かれた気分は一気に消え去った。
私は、机の上に山になっていた企画書を手に取ると、班ごとに分け、さっと目を通していく。
新規と再提出と分け、期限の有無を確認。
すると、先に出勤していたのか、神屋課長が部屋に入るなり、私を呼んだ。
「おはよう、名木沢クン。――ちょっと、良いかい」
そう言って、部屋の片隅にパーティションで区切られているエリアを指さされる。
そこは、みんなの視界から適度に外れてくれていて、大事な話をするにはちょうど良い場所だ。
私はうなづくと、すぐに腰を上げて向かった。
――何かあったのかしら。
おそらく、どう転んでも、面白いものではないだろう。
そんな事を思いながら入ると、課長は、私に視線を向け、そのまま声を抑えて言った。
「今回の、サングループとのコラボ企画、横槍が入って、白紙になるんだってさ。――心当たり、ある?」
「――え」
その言葉に、一瞬、江陽の親戚の存在が頭をかすめた。
けれど――それは、それだろう。
私は、ゆっくりと首を横に振った。
課長は、肩を落とし、申し訳程度に置いてあるイスに腰を下ろした。
「――課長、今回のコラボ企画って、カップ麺の方でしたよね……」
視線だけで座るように言われ、従うと、私は、恐る恐る課長に尋ねる。
「そうなんだけどね――今、社長から聞いたんだけど……何か、他のトコとの話が進んでいるって言われてさ」
「――他、ですか」
「――”ワールドスパイス”だってさ」
「え」
私は、驚いて顔を上げる。
――そこは、昇龍食品と、シェアを二分している、調味料専門の会社。
いわゆる、ライバル会社なのだ。
課長は、弱り切った表情を見せると、そのまま頬杖をついた。
「ワールドスパイスの方で、世界の本格麺って企画が提案されたらしくてね。――サングループの企画さんから、今回はそっちで行きたいって言われてるんだと」
「……で、でも、あちらとは、方向性が若干違うのでは……」
「まあね。ただ、ウチとのコラボも、もう、この二年で四回。――言っちゃ悪いけど、マンネリ感も否めないし、正直、最初ほど売り上げも伸びていない。そういう理由もあってだろうね」
「――……で、でも、定番化していると考えるべきでは……」
私が反論すると、課長は、チラリと見やり、ため息をついた。
「定番化したら、コラボする意味が無くなるでしょ。――あくまで、目新しさや、話題性が目的なんだから」
そう返され、次が続かなくなってしまう。
――確かに、コラボ企画の位置づけは、そんな意味合いもあるだろう。
「……では、今回は、見送る、と――」
課長は、うなづくけれど、気合いを入れるように、勢いよく立ち上がった。
「でもまあ、今回だけ、ってコトでしょ。――このまま、フェードアウトはさせないからさ」
後半部分の声音の迫力に、一瞬、気おされてしまうが、私は、うなづいて返した。
「――承知しました。……コラボ企画に関しては、できるだけのものを、揃えておきましょう。――サングループの方から、頼みに来るようなものを」
――このまま、泣き寝入りなど、してなるものか。
課長は、私を見やり、ニヤリ、と、口元を上げた。
「さすが。わかってくれてるね」
私達はうなづき合うと、それぞれの席に戻ったのだった。