大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
「――……羽津紀、顔、怖いけど……?」
「――別に。いつも通りじゃないの」
お昼休み、目の前で、コンビニ弁当のエビフライを口にしながら、聖が眉を下げて私に言った。
「……江陽クンと、ケンカした?」
「……別に」
私の手元には、同じく、コンビニで調達したサンドウィッチ。
――今日は、お弁当を作る余裕など、ある訳が無い。
それを頬張りながら、今朝の課長の話を思い出す。
コラボ企画自体、唐突に始まった事だけれど、広報の頑張りもあって、今や定番企画のようなものなのに。
――絶対に、ウチとの企画の方が良かったって言わせてやるんだから。
そんなモヤモヤが再び起こり、無意識に手は止まる。
すると、聖が、あきれたように言う。
「……羽津紀ー。ご飯の時くらい、怖い顔しないでよー」
「あ、ご、ごめんなさい、聖」
聖には理由は言えないけれど、あえて聞いてこないのは、何かあったと、察してくれているからだろう。
そういう事には、敏感なのだ。
「まあ、良いけどさー。……それよりさ、今日も、江陽クンとデート?」
ペットボトルのお茶に口をつけながら、聖が尋ねる。
私は、スカーフで隠した首元に、思わず触れてしまった。
「――……予定は無いわ」
あくまで、冷静に。
動揺したら、余計に突っ込まれるだけだ。
聖は、私を見やり、何も気にしていない風に尋ねた。
「そっか。じゃあ、今日はご飯作る?」
「ええ。メニューは何にしましょうか」
「えっとねー」
子供のような甘えた口調は、五人兄姉妹の末っ子の聖にとって、通常仕様。
けれど、それは、私に対して気を許しているから。
通常は、それほど鼻につくような口調ではないのだ。
彼女は、その美貌ゆえ――もう、長年、男性からの不躾な視線や態度、そして、それに絡んで女性からの妬みに晒され続けている。
なので、二重人格ではないが、使い分けているのだそうだ。
――アタシも、早く彼氏欲しいよー……。
江陽と付き合って半年ほどの頃、聖に料理を教えていると、彼女は、包丁を持ちながら、ため息交じりに言った事があった。
いつものセリフ、と、聞き流そうとしたのだが――その、さみしそうな表情に、もしかして、素を出せる相手が欲しいからなのかもしれないと気づいたのは、少し前にいろいろあったからだ。
私が、江陽に対してだけは、感情をむき出しにしてしまうように――。
「羽津紀」
すると、その張本人が声をかけてきて、私は顔を上げた。
「何よ、江陽?」
「もう食い終わったのかよ」
「見ての通りよ」
「何だよ、待ってろよ」
「何でよ。別に、約束してないじゃない」
「婚約者だろ」
「だからって、そんな義務は無いでしょうが」
「ハイハイ、その辺で終わってよー?みんな見てるから」
私達の言い合いに割って入った聖は、チラリと周囲に視線を向ける。
それにつられ、二人で見回せば、興味深々の表情の皆様。
「……わ、わかった……」
さすがに江陽も恥ずかしくなったのだろう、素直に引き下がると、私の隣に座った。
「――もう、いい加減にして」
流れ弾が当たったようなもの。
まったく、いつになっても、コイツの独占欲は収まる気配も無い。
――婚約までしたっていうのに……。
――ああ、いや、正式に、ではないか。
私は、複雑な思いのまま、勢いよく、お昼のコンビニ弁当をかき込んでいる江陽を見やったのだった――。
「――別に。いつも通りじゃないの」
お昼休み、目の前で、コンビニ弁当のエビフライを口にしながら、聖が眉を下げて私に言った。
「……江陽クンと、ケンカした?」
「……別に」
私の手元には、同じく、コンビニで調達したサンドウィッチ。
――今日は、お弁当を作る余裕など、ある訳が無い。
それを頬張りながら、今朝の課長の話を思い出す。
コラボ企画自体、唐突に始まった事だけれど、広報の頑張りもあって、今や定番企画のようなものなのに。
――絶対に、ウチとの企画の方が良かったって言わせてやるんだから。
そんなモヤモヤが再び起こり、無意識に手は止まる。
すると、聖が、あきれたように言う。
「……羽津紀ー。ご飯の時くらい、怖い顔しないでよー」
「あ、ご、ごめんなさい、聖」
聖には理由は言えないけれど、あえて聞いてこないのは、何かあったと、察してくれているからだろう。
そういう事には、敏感なのだ。
「まあ、良いけどさー。……それよりさ、今日も、江陽クンとデート?」
ペットボトルのお茶に口をつけながら、聖が尋ねる。
私は、スカーフで隠した首元に、思わず触れてしまった。
「――……予定は無いわ」
あくまで、冷静に。
動揺したら、余計に突っ込まれるだけだ。
聖は、私を見やり、何も気にしていない風に尋ねた。
「そっか。じゃあ、今日はご飯作る?」
「ええ。メニューは何にしましょうか」
「えっとねー」
子供のような甘えた口調は、五人兄姉妹の末っ子の聖にとって、通常仕様。
けれど、それは、私に対して気を許しているから。
通常は、それほど鼻につくような口調ではないのだ。
彼女は、その美貌ゆえ――もう、長年、男性からの不躾な視線や態度、そして、それに絡んで女性からの妬みに晒され続けている。
なので、二重人格ではないが、使い分けているのだそうだ。
――アタシも、早く彼氏欲しいよー……。
江陽と付き合って半年ほどの頃、聖に料理を教えていると、彼女は、包丁を持ちながら、ため息交じりに言った事があった。
いつものセリフ、と、聞き流そうとしたのだが――その、さみしそうな表情に、もしかして、素を出せる相手が欲しいからなのかもしれないと気づいたのは、少し前にいろいろあったからだ。
私が、江陽に対してだけは、感情をむき出しにしてしまうように――。
「羽津紀」
すると、その張本人が声をかけてきて、私は顔を上げた。
「何よ、江陽?」
「もう食い終わったのかよ」
「見ての通りよ」
「何だよ、待ってろよ」
「何でよ。別に、約束してないじゃない」
「婚約者だろ」
「だからって、そんな義務は無いでしょうが」
「ハイハイ、その辺で終わってよー?みんな見てるから」
私達の言い合いに割って入った聖は、チラリと周囲に視線を向ける。
それにつられ、二人で見回せば、興味深々の表情の皆様。
「……わ、わかった……」
さすがに江陽も恥ずかしくなったのだろう、素直に引き下がると、私の隣に座った。
「――もう、いい加減にして」
流れ弾が当たったようなもの。
まったく、いつになっても、コイツの独占欲は収まる気配も無い。
――婚約までしたっていうのに……。
――ああ、いや、正式に、ではないか。
私は、複雑な思いのまま、勢いよく、お昼のコンビニ弁当をかき込んでいる江陽を見やったのだった――。