公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
「そうでしょう? エマはしばらくこの邸に滞在する予定だから、レナード公爵もまたお立ち寄りになって。
ねぇ、エマ。次はいつお菓子を作ってくれる?」

「えっ、え? ええと・・。公爵様、次はいつこちらにいらっしゃるでしょうか」

伯母様からの無茶振りを受け、それならばレナード公爵の都合に合わせようと考える。

背後の騎士に予定を確認したのか、何か言葉を交わしてから『2週後の同じ曜日に』と答えてくれた。

「レナード公爵は、何か思い出に残るお菓子がありますの? このフィナンシェは、私や侍従たちの思い出のお菓子だとエマにリクエストしたのよ」

「エマ嬢は、何でも・・作れるのですか?」

レナード公爵の思い出に残るお菓子。
エマのレシピ帳に無くても、私の記憶にあれば大抵のものは作れるはず。

パティシエールだった恵麻のレパートリーを思い浮かべる。

「まずは伺ってみないとお答えできないですが、どうぞ仰ってください」

そう言いつつ、レナード公爵の答えを待った。

「そう、だな・・・・それなら、ガレット・・は作れるだろうか・・」

申し訳なさそうに、つぶやくように口にする。

ガレット・・。
それは、どっちのガレットだろう・・。

ガレットと呼ばれるお菓子には2種類あり、どちらなのかレナード公爵は分かるだろうか。

「忘れてくれ。エマ嬢の作れるもので ───」

無言になった私に、レナード公爵は無茶なリクエストをしてしまったと思ったのだろう。

「いえ、あの・・・・仰っているガレットとは、厚焼きのクッキーのようなものですか? それとも・・アーモンドクリームが入ったパイのことですか?」

「えっ」

レナード公爵の目に光が灯った・・ように見えた。
エマが作れるかはともかく、パティシエールの恵麻はどちらも作ったことがある。

「パイ・・だと思う。当たりが入っていたら、幸運が訪れるとも聞いたことがあります」

それは、ガレット・デ・ロワだ。
王様のお菓子、と呼ばれるものね。

「公爵様の召し上がったものと、全く同じものが作れるとは限らないですが・・。それでも構わないでしょうか?」

思い出のお菓子なのだ。
出来上がりが想像と違っても、受け入れてもらえるかが気になった。




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