公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
使っている材料と分量によって、仕上がりも味も変わってくる。
同じ名前のお菓子でも、お店によって形や風味が異なるのはそのためだ。

「いや、しかし・・本当に作れるのですか? 前日から仕込んだり、かなり大変だと聞いた覚えが・・」

とにかく信じられないといった表情を浮かべつつ、レナード公爵は私に問う。

「そう、ですね・・。でも頑張ってみます。美味しくできるよう、公爵様も祈っていてください」

「はい。その時は、パイに合う紅茶を持って来ましょう」

「ありがとうございます」

「エマ、パイの試食が楽しみだわ。試作もするのでしょう?」

私は、レナード公爵と伯母様に向かって曖昧に微笑んだ。

ガレット・デ・ロワには、思い入れがあって。
実は、このパイをリクエストされたのは初めてではない。


詩音・・。


亡くなる前の恋人を思い出して、胸がきゅっと苦しくなった。

詩音の祖母はイギリス人で、年始に必ずこのお菓子を作り、家族でワイワイと囲んだのだという。
ただ、祖母が他界してからは誰も作ることがなく、寂しく思っていたそうだ。

詩音と私は、私が勤務していたパティスリーで出逢った。

後から知ったのだけれど、詩音は年始に友人と会う約束をし、手土産を買うために友人宅の最寄駅にあったお店に入った時、私が店頭のショーケースにお菓子を並べていたそうだ。

年始の3日間だけ店頭に並ぶガレット・デ・ロワを偶然見つけて、目が釘付けになったと言っていた。

手土産用の焼き菓子とは別に、ガレット・デ・ロワを2切れ包んでほしいと頼まれ、私が切り分けたのよね・・。

気に入ってくれたのか、その後何度かお店に来てくれたのに目的の物が置いていなくて、何度目かの来店時に『あの・・』と声をかけられたのが、詩音と親しくなるきっかけだった。




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