公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした

Side 公爵

自ら厨房に立つ令嬢・・か。

とはいえスカラ夫人の姪であれば、従者のいない没落寸前の伯爵令嬢が、やむなく自分でというわけでもないだろう。

「閣下、先ほどの焼き菓子・・本当にあのご令嬢が作ったのでしょうかね?」

「ん? どうしてだ?」

「いえ・・・・閣下にアピールしたいだけなのかと思って。そのようなご令嬢を、過去に何人も見て来ましたし」

「そういえばそうだったな」

俺も思わず苦笑いする。
配下の騎士たちが貴族女性に幻滅しているのは、俺のせいでもあった。

近寄ってくる女性たちが欲しているのは『公爵夫人』の地位だ。

王族女性の次に高い地位を持ち、当然財産もある。
カネで解決できるものなら、ほとんどのことが思いのままになるのだ。

「エマ嬢は、本当に菓子を作っていると思うぞ。そうじゃなければ、俺がリクエストしたガレットのことをあんなに詳しく知らないはずだ。
それに、今日俺が夫人の邸に立ち寄ることは事前に伝えていなかったし、そもそも知らなかっただろう」

「確かに・・。ところで、ガレットという菓子は、そんなに難しいのですか?」

「難しいというより、手間がかかるそうだ。それをよく知っているようだったし、更には周りの人たちの分まで作ると言うのだからな。
俺にアピールどころか、みんなで楽しもうという気持ちを感じたよ」

「だとしたら・・・・もしかしたら、あのご令嬢なら・・」

その先の言葉を遮るように、俺は視線を逸らす。

期待するだけムダだろう。
実の母でさえ、受け入れられなかったのだ。

そう。
祖母や従者と、共に厨房に立つ息子を。

高貴な男子に料理など相応しくない、そんなことよりも政治や社交をもっと学ぶべきだと母は言った。
調理は従者の役割、政治や社交は貴族の役割。

しかしそういった考えにも、政治や社交にも興味の持てなかった俺は、家を出て騎士として才を成した。
そして、父の許しを得て祖父が残してくれた公爵位を継ぐべく、生家を離れたのだ。




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