公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
手紙が届いてから数日後、事件が起きた。

「閣下、国境近くの市場で火災が起きているそうです!」

執務室のドア前から報告の声が聞こえ、カイルと共に部屋を出る。

「カイル、救援物資を手配して運んでくれ。俺は先に現場に向かう!」

「承知しました。すぐに追いかけます」

配下の騎士を数名従え、報告のあった市場に馬を走らせる。

近づくにつれ、赤い炎が見えてきた。
負傷者がいなければ良いのだが・・。

「閣下、こちらです!!」

先に向かっていた騎士に誘導され、民衆の避難場所へ向かう。
馬を降りて、避難場所をぐるりと見回った。

ん? あれは・・。
確かスカラ夫人の邸で見た護衛騎士ではなかったか?

避難場所の近くにある煙のくすぶる商店街を走り回っている姿を見て、俺はその騎士に声をかけた。

「どうした。中にまだ誰かいるのか?」

「公爵様! エマ様が見つからないのです・・・・おそらく、逃げ遅れた子供とまだ中に ───」

「・・っ、私が探してくる!」

「閣下!! お戻りください!!」

引き留める騎士を振り切り、俺は黒煙の中に飛び込んだ。
炎は消えているが、煙のせいで視界が開けない。

「エマ嬢! エマ嬢どこだ! 返事をしてくれ!」

「・・たす・・けて・・。ここ・・だよ」

商店の中から子どもの声がした。
でも、聞こえるのは子どもの声だけだ。

「どこだ? 棚の後ろにいるのか?」

「・・うん」

真横にあった商品棚の後ろに回ると、5歳くらいの男の子がいた。

「ケガは無いか? 他に、誰かいるか?」

「お姉さんが・・・・ぼくをたすけて・・・・」

子どもの奥に目を凝らすと、横たわっている大人が見える。

「分かった。店の裏から外に出れるか? 騎士が待っているから、ひとりでも行けるな?」

こくこくと頷くと、子どもは裏口に向かって走って行く。
子どもはもう大丈夫だ。

「エマ嬢? 大丈夫か?」

俺はかがみこんで、エマ嬢と思われる女性をそっと抱き起こす。

ゴホッゴホッ・・。
何度か咳き込んでから、女性は薄く目を開けた。

「あ・・公爵・・様・・」

消えそうな声で囁いた後、すぐに目を閉じてしまう。
ああ、エマ嬢・・目を開けてくれ・・。




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