公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
「それはそうと、申し訳なかった・・エマ嬢」

「え・・?」

突然の謝罪に、驚いて目を開ける。

「我が国で起こった火事に、エマ嬢を巻き込んでしまった。火傷も傷も熱も、治るまで責任を持って対処する」

「そんな、責任だなんて。たまたまあの場に居合わせて子どもが苦しそうにしていたら、誰だって同じように助けますから」

「そう・・だろうか」

「きっと、公爵様もそうなさるでしょう?」

そう尋ねた私に、レナード公爵は少し困ったような表情を浮かべた。

あっ、そうか・・。
そうしないのか。

だって『公爵』なのだから。
王族、なのだから。

「・・身分も考えず、申し訳ありません。『公爵様』なのですよね。見境なく助けに行ったりなど、してはいけないお方でした」

「いや、そんなことはない。私だって助けに行くさ。私は・・エマ嬢を心配しているのだ。また無理をするのではないかと」

「えっ」

「次は私が、あなたの代わりに子どもを助ける。だから・・その・・できるだけ、私の近くにいてくれないか?」

それって・・。

でも、私が感じたとおりに捉えていいの?
この世界の・・エマの世界の価値観が分からない。

レナード公爵の言う『私の近くにいてくれないか?』とは、無理をしないように、私を近くで見張っていたいということかもしれない。

よくよく考えてみれば、治るまで責任を持ってくれるのだって王族として果たす役割のひとつなのだろう。
隣国から来た貴族令嬢が、被害に巻き込まれたから。

「仰っている意図が、あまり理解できていないところもありますが・・・・。
私などに、公爵様が責任を感じる必要などありません。もう少し動けるようになったら・・伯母の元へ帰りますから」

それくらいしか言えることがなく、私は目を伏せる。

「そうではなく・・。ああ、どう言ったらいいのだ・・。エマ嬢が・・誰か心に決めた相手がいるのなら、ここに留め置いてはいけないと分かっている。でも、そうでないのなら・・その・・」

一度言葉を切ったレナード公爵は、顔を上げた私に向けて静かに言葉を続けた。

「ここに・・しばらく、私のそばにいてもらえたら・・と」




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