公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
「本当に・・申し訳ありませんでした。何だかいろいろ思い出して、胸がいっぱいになってしまって」

「いや、少しでも気が晴れたのなら良かった。泣き顔も綺麗なのだなと思って見惚れていたくらいだ」

レナード公爵にそう言われ、私はまた頬が赤くなる。
そんなにストレートに表現されては、私も言葉が無い。

「エマ嬢、少し眠るといい。私はもう一度、先ほどの場所を回ってくるから。戻ってきたら、ここにまた立ち寄るよ。さぁ、横になって」

「はい。お気をつけて」

見送りの言葉を口にすると、心なしか、レナード公爵が照れているように見えた。

きゅん・・。

小さく胸が疼いた。
これは、どういった感情だろうか。

分かっていて、あえて考えてみる。

だって私は、ほんの少し前に詩音と離れたばかりなのに、もう他の誰かに心を動かすなんて・・。

膨らみ始めた気持ちと、それを抑えつける罪悪感で心がざわめき、眠ることができたのは陽が傾き始めてからだった。


『恵麻、ただいま。帰ってきたよ』


「お・・かえ・・り」

伸ばした手は、そのまま温かく包まれた。

「エマ嬢? 夢でも見ていたのか・・今の『おかえり』は誰に向けられたものだろうか」

ぼんやりとした視界に、レナード公爵がいる。
そう、詩音じゃなく、レナード公爵だ。

「あ・・公爵様・・・・。火事のあった場所は、もう落ち着いていたでしょうか・・」

あの『おかえり』は、夢の中で帰宅した詩音に向けたもの。
レナード公爵ではない。
だから、問いには答えなかった。

「あ・・ああ、もう大丈夫だ。そうだ、エマ嬢に渡してくれと預かり物をしてきたんだよ」

「え? 預かり物ですか?」

シルク製の布袋から出された、とても綺麗な色をした鉱石が私の手のひらにそっと置かれた。




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