公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
身体を起こした私のすぐ横に、レナード公爵が腰掛ける。

「あの・・これは・・?」

「エマ嬢が助けた子どもの父親が、鉱石の採掘を生業にしていると言っていた。お礼にぜひ受け取ってほしいそうだ」

「お礼・・」

そんなつもりで助けたわけではなかった。

そう思いつつ手のひらの鉱石を眺めていると、光の当たる角度によっては、レナード公爵の瞳の色と同じミッドナイトブルーにも見える。

「きっとその方は、公爵様が助けたとお思いなのでしょうね。だからこの色の石をくださったのかと」

「いや、それが・・だな・・」

「はい」

「あの男の子が、私の瞳の色と同じ色を選んで持たせたのだそうだ。どうやら、エマ嬢と私が恋仲だと子どもながらに思ったらしく、これなら絶対に喜ぶからと・・」

恋仲・・。
それはつまり、レナード公爵と私が心を通わせる仲だと・・?

レナード公爵も戸惑っているのか、前髪をクシャッとかきあげた。

「その・・恋仲かどうかはともかく、迷惑でなければ、お守りがわりにエマ嬢が持っていてくれないか?」

それは・・レナード公爵の瞳と同じ色を抱くこの鉱石を、私が・・?

複雑だけれど、男の子の気持ちも大事にしたいと思い、お守りがわりにとレナード公爵も言ってくれるならば。

「公爵様・・お願いがあるのですが」

「ん? どんな願いだろうか」

「この鉱石を、加工していただきたいのです。お守りとしてなら、ずっと身につけられるような形状のものが嬉しいのですが」

そう伝えると、レナード公爵の手がすっと頬に伸びてきた。

「すぐに手配するよ。鉱石と共に、私がエマ嬢を守ろう」

私の顔を包み込んでしまうような大きな手。
なんだかホッとしてしまい、その手に委ねるように目を閉じると、額にやわらかいものが触れる。

今の・・もしかして・・。
驚いて目を開けると、やはりすぐ近くにレナード公爵の顔があった。

額へのキスが嫌なわけでもなく、かといって続きを望むわけでもなく・・・・何とも言葉にできない感情が胸の中を埋め尽くし、私は目を伏せた。




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