公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした

Side 公爵

困ったな・・。

誰かを想うというのは、こんな気持ちになるものなのか。
あっという間にエマ嬢への気持ちが膨れ上がり、抑えきれなくなるほどだ。

想いが言葉や行動の端々に漏れ出るだけでなく、触れたくて自然に手が伸びる。
俺の手の中で安心した表情を見せられて、衝動的に額に唇を寄せた。

驚いた顔をしていたものの、嫌がっているようには見えなかった。
だからといって、嬉しそうな表情でもなかったけれど・・。


コンコンコン。

「レナード様、お呼びでしょうか」

着替えをして身なりを整えたいというエマ嬢の申し出に応え、俺は執務室に移ってリチャードを呼んだ。

「リチャード、この鉱石を宝石商に預け、急ぎネックレスに加工するよう伝えてくれ」

「ネックレス・・エマ様への贈り物ですか?」

「いや、これはもともとエマ嬢にと貰い受けたのだが、お守りとして身につけられるものに加工できないかとエマ嬢に頼まれたんだ」

「ほぅ、レナード様の瞳の色の鉱石を身につけられるということですか・・。それは微笑ましい兆候ですね」

揶揄われていると分かっていながらも、思わず表情が緩む。

「ところでレナード様、今夜はどちらでお休みになるおつもりですか?」

「どちらって・・・・あー、そうか」

私室のベッドにはエマ嬢がいる。
かといってそれを明け渡してもらおうなどとは思わないし、寝るだけなら他にも部屋はある。

ただ・・。

できることなら、今夜は近くにいたい。
痛みや熱が出たらすぐに手当をしてやりたいし、もし火事を思い出して眠れないようなら話し相手になれたらと・・。

ふと見ると、リチャードが満面の笑みを浮かべている。

「レナード様、共寝はいけませんが・・。心配だからお近くで様子を見たいというのであれば、今夜は一番広い客間に用意をさせますよ」

「俺がひと晩そばにいたいと言ったら、エマ嬢は何と言うだろうか・・」

「どうでしょうか・・。でも、考えられていることを真っ直ぐお伝えすれば良いのです。邸の従者たちは、皆お二人の行方を見守っていますよ。ついにレナード様が・・と」

それを聞いて、俺は思わず苦笑いした。




< 26 / 45 >

この作品をシェア

pagetop