公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
一緒に食べるといっても、会話を楽しむというよりは、食事を味わいつつ時折その感想を口にするような、とても静かな時間だ。

「そうだ、何か飲み物を・・・・エマ嬢は、どんなものが好みだろうか?」

ドアのすぐ側に立っている侍従が、それを聞いて用意しようとしたところを手で制してから立ち上がる。

「え・・公爵様が、私に淹れてくださるのですか?」

「もちろん。さぁ、何にしようか・・・・もし苦手じゃなければ、薬効のあるハーブの茶葉はどうだろうか。今夜、よく眠れるように」

「はい、それをいただきます。
ところで、そういった茶葉や薬草の知識はどこで身につけられたのですか? お菓子や料理にも使うことがあるので、良ければ伺いたいです」

素直に問われて思った。

エマ嬢となら・・お互いの地位やプライドをぶつけ合うような貴族同士の重苦しい関係ではなく、興味のあるものについて教え合ったりすることもできそうだ・・と。

過去も未来も、共に分かち合える相手と一緒にいられたなら、どんなに幸せだろうか。

ふっ、と笑みを浮かべつつ問いに答える。

「以前は戦地に赴く機会も多くて、負傷者や体調不良の者が出た時、薬がすぐに手に入らないこともあってね。そこに住む人たちに、薬効のある植物を教えてもらったんだ。
それで興味を持って、王都に戻ってきてからも本で知識を増やしたりした。そういえば・・本が書棚にあった気がするな」

「そうだったのですね。もし良ければ、その本をお借りしたいです」

「食事の後に持ってこよう。さぁ、お茶を・・少し苦いかもしれない」

差し出したカップを手に取り、エマ嬢はゆっくりとお茶を口に含んだ。
不味そうな表情もせず、飲み進めているようだ。

それを見て、おもむろに話を切り出した。

「エマ嬢、ひとつ提案があるのだけれど」

「はい、何でしょうか」

カップに向けていた視線を上げ、エマ嬢は真っ直ぐに俺を見た。




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