公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
「公爵様? 誰かに見られたら・・」

「私は構わない。嫌じゃなければ・・少しだけ、このままでいてもいいだろうか」

こくん、と頷いた感触があった。

俺の腕の中に留まってくれている。
それだけで、とても満たされた気持ちになった。

その反面、邸から去る日を思い途端に寂しくなる。

「エマ嬢、スカラ夫人にはいつ帰ると連絡すれば良いだろうか・・」

腕の中のエマ嬢に、囁くように尋ねた。

「明後日には帰ろうと思います。国境まで迎えを出してもらうよう、伝えていただけますか?」

「・・分かった。そこまで私が見送ろう」

明後日。
明後日か・・。

つい、腕に力が入った。

「公爵様、そんなに力を入れては、お食事がつぶれてしまいます・・」

「あっ、すまない」

「ふふ、どうぞ召し上がってください」

エマ嬢から受け取った包みを開けると、薄切りにした鶏肉や野菜がパンに挟み込まれていて、食欲をそそるオレンジ色のソースもかかっている。

見た目だけで、間違いなく美味そうだ。

「また・・・・作ってもらえるだろうか」

「えっ。まだひと口も召し上がっていませんよ?」

「・・『また』を望みたいんだ・・」

「それは・・どういう・・」

何度か、エマ嬢に対する気持ちを言葉にしてきた。

近くにいてほしい。
守りたい。
一晩中、そばにいたい。

その度に戸惑った反応をするのは、心に誰か別の男がいるか、もしくは、俺を恋愛の対象とできないからか。

でも、もう抑えがきかないほどに想いが膨らんでしまった。

「エマ嬢、もう一度尋ねたい。誰か・・心に決めた相手がいるのだろうか?」

「・・・・心に決めた、相手・・」

「・・いるの・・か・・?」

「・・いたのですが、死別してしまいました・・」

心に決めた相手と死別・・。
エマ嬢は、つい最近まで隣国の皇太子の婚約者だったはず。

死別とは、いったいどういうことだ・・?




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