公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
「私に良くしてくださるのは、公爵様のお立場に関わるからだと考えていました。でも・・・・それだけでは・・なかったの・・ですね・・」

俺はゆっくりと頷いた。

「まだ出逢ったばかりで、と思うかもしれない。けれど、どうしようもなく気持ちが膨らんで自分でも驚いている」

不思議なもので、想いを口にすると触れたくてたまらなくなる。
なんとかその欲望を抑え、エマ嬢が作ってくれた軽食を口にした。

「・・美味い。調理は、全てエマ嬢が?」

「いえ、もちろん厨房のみなさんに手伝っていただきました。良くしてくださるお礼に、公爵様に軽食を作りたいと伝えると、快く厨房に入れてくださって。
実は明日も、一緒に何か作ろうとお約束しているのです」

エマ嬢の笑顔がほころぶ。
きっと厨房の従者たちも、楽しみにしているのだと容易に想像できた。

明日・・か。

コンコンコン。
ノックの音と共にカイルが入ってくる。

「閣下、あと20分ほどで報告会が始まります。今日の資料を持ってきました」

「ありがとう。
ところでカイル、明日と明後日だが、何か重要な会議や面会はあっただろうか?」

「はい? 明日と明後日ですか・・どちらも午前に入っていますね。午後は今のところ予定はありません」

「そうか。ならば、明日の午後は邸で執務をしたい。明後日の午後はエマ嬢を国境まで送り届けたいと思うが、構わないか?」

そう言うと、カイルは手元の予定表を見ながら別の提案をしてきた。

「それなら・・いっそ明日は休暇を取られてはどうですか? 明日の会議であれば私が代理でも構いませんし、急ぎの執務もありませんから」

俺だけに見えるように、カイルがパチッとウインクした。
明後日送り届けるのだと聞いて、勘のいいカイルはいろいろと察したのだろう。




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