公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
明日、急遽休みを取ることになったため、帰りがすっかり遅くなってしまった。

「レナード様、おかえりなさいませ。そういえば、明日は休暇を取られるのだとエマ様に伺いました」

「聞いたか。エマ嬢が、明日も従者たちと調理するのだと楽しそうに話すものだから、ぜひ見たいと思ってね。
本当は、午後からここで執務をするつもりだったのだが、カイルが会議を調整してくれて休めることになった」

「そうでしたか・・。それならば・・」

よからぬことを考えている時のリチャードの顔だ。
何を言い出すつもりなのか。

「それならば・・何だ」

「はい。いっそ、レナード様とエマ様おふたりで調理されてはいかがですか?」

「えっ」

「まぁ、それは明日決めてもいいとして・・。夜食を召し上がってください。準備するよう伝えてきます」

俺は着替えのために、いつも通り私室に向かう。
ドアを開けると、『あっ・・』と小さな声をあげたエマ嬢がいた。

しまった・・。

元は自分の部屋とはいえ、今はエマ嬢に使ってもらっているのを忘れていた。

「申し訳ない。ついいつもの習慣で入ってしまって・・」

「いえ、私こそ・・申し訳ございません。別の部屋に移らなければならないのに、ずっとお借りしてしまって。
今からでも移った方がいいですよね。リチャードさんにお伝えしてきます」

ベッドで本を読んでいたエマ嬢が、夜着に近い薄手のワンピースのまま部屋を出ていこうとするのを、抱き寄せるようにして慌てて止める。

「行かなくていい」

「でも・・」

「こんな遅くに、たとえ従者であってもエマ嬢の無防備な姿は見せたくないな・・」

「・・・・」

頬を真っ赤に染めたエマ嬢は、俺の言葉をどう受け取っただろう。
俺の中に、いつのまにか独占欲まで芽生えていた。




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